タイ  「チェンマイ」


チェンマイには興味を持っていた。バンコクに次ぐ第二の都市ということだけがその理由ではない。北タイ料理にも美人にも魅かれはするが ーだからチェンマイに興味があるー と言い切るほど執着があるわけでもない。

興味を持ったのは、この町に数千人の日本人が暮らしていると聞いてからだ。それも学生とかバックパッカーの沈没組みではなく、年配の日本人が中心らしい。バブルのころ政府のどこかの機関が後押しした ”シルバーコロンビア計画” というのが話題になったことがあった。それは日本の裕福な老人に海外の物価の安いところで暮らしてもらうという狙いの計画だったと思う。オーストラリアとかスペインのコスタデルソルとかハワイなどが候補地に挙がっていた。さてタイはどうだったか?海外からは ー日本人は老人まで輸出するのか?− とあまり評判がよくなかった記憶がある。

チェンマイの街をぶらついていると、街角に日本人向け喫茶店があった。入ってみると漫画や週刊誌がおいてあって、60代くらいの日本人がバラバラに雑誌や新聞など読んでいた。上階は日本語の本の貸し出しをしている店で定住者、ロングステイの日本人を相手にしているらしい。喫茶店の壁には 「ロングステイのお世話します」 のハリガミが貼ってある。

やがて彼らに ”外国ズレ日本人” の雰囲気がないことに気がついた。海外に長く住んでいる日本人には独特の雰囲気がある。欧州に住んでいる人は、妙にファッションがシックで、ややツンとしている感じがあるし、アメリカに住んでいる連中はポップカルチャーっぽい雰囲気が漂っていて無抵抗に、むしろ喜んでアメリカ文化を受け入れたのだろうとの印象を持つ。アジア系日本人?は大声で話しその立ち居振る舞いに傍若無人なイメージがある。

この喫茶店にいた年配の人たちは、そのどの雰囲気もなかった。しばらく彼らをぼんやりと眺めていて、どうもしても海外経験、それも住んだ経験がない人たちに見えるのだ。その匂いがない。

妙に色っぽいタイ人のウエイトレスとの会話を聞いていても、まったくタイ語は出てこない。なぜか彼らを見ていて ー余計なお世話なのだがー 日本で子供を育て上げ、仕事も定年までキッチリとしhappyリタイアした人たちー という印象はもたなかった。きっとこのテーマ、”チェンマイに住んでいる日本人たち” を掘り下げてみると想像を超えたモロモロのエピソードが出てくるに違いない。

このチェンマイには、日本人を超える欧米人が入り込んでいる。街のいたるところに「English Breakfast」「We have Pancake」「Bacon Eggs available」の貼り紙や看板を掲げたCoffee Shopやレストランが無数にある。アジアフードを食べられない彼らを目当てにした店だ。そして彼らは町のよほどハズレにでも行かないかぎりチェンマイのどこにでも入り込んでいた。

高いユーロを背景に物価が安くそれほど暑くないチェンマイに ”雪崩れ込んでいる”のだろう。彼らをよく見ていると長期滞在のバックパッカー、一般の旅行者以外に奥さん連れではない年配のオトコがかなり多いのに気づく。彼らは夜になるとタイ人の娘か孫くらにいになるオンナをつれて飲んだり食べたりしている。そんな風景をみながら街をぶらぶら歩いた。彼らは本国でどんな生活をしていたのだろう、いま本国で彼らを
誰が待っているのだろうー などと彼らにとっては迷惑以外のないものでもないことを勝手に想像していた。

少し前に話題になった本に「アシアンジャパニーズ」というのがある。アジアを放浪しているもしくは住み着いている、主に若い日本人についてのルポルタージュで文庫にもなった。私も20代から30代にかけて、彼らとは違う理由でアジアには頻繁に出入りしていたから、共感までは行かないにしろ ーアジアを彷徨っているー 彼らの気持ちがわかるような気がした。

欧米人のアジアへの定住ー
これについての優れたルポはまだ読んだことがない。いや小さな記事すら目に触れたことはない。もし 「アシアンヨーロピアン」 という本がいつか書かれたら、きっと手にとってみるだろう。

by フェリックス 2007年5月

 

 

 

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