ブラジル人秘書


オレの事務所にMというオンナがいる。白人の小柄なオンナでまだ22歳なのだが、気は強い。オレの秘書をしている。秘書といえば聞こえは良いが、田舎のことだからなんでもする。個人のコマゴマとした支払いをしたり、修理に出したオレの車の回収にいったりもしている。甘いものに目がないオレに、頭が痛くなるくらい甘いプディングを作ってくれたりもする。アメリカのようにJOB DESCRIPTIONなどという鬱陶しいモノはなく、頼むとたいていのことはやってくれるのだ。

このオンナがオレの事務所で仕事を始めたときは、まだ16歳だった。そのころはまだほんの小娘で、オレが仕事でゴタゴタしグッタリしていたりすると

「仕事のしすぎよ、1日か2日休んだほうがイイ」

などと可愛いことをいったりした。

その後、

「もっと良い仕事が見つかった」

といってオレの事務所を出て新しい仕事につくのだが、何ヶ月かすると必ずそこのボスとケンカをしてオレの事務所に戻ってくるのだった。もう出戻りも三回目で、いい加減オレもアキレテしまった。でも気心が知れていてそれにカネに信用がおけるので「オウ、戻って来い」と二つ返事で受け入れる。

ブラジルではカネを任せられるヤツというのは、それだけでとても貴重なのだ。

まぁ気は強いがどこか可愛げのあるオンナで、殺伐とした日々をすごしているオレにとって彼女の存在がそれを幾分か和らげるということもあったのだがー。

で、ヤメタ理由を聞くと、「シャットな奴、最低の男」というだけでそれ以上は言わない。どうせ職務権限でナニカされそうになって、元々短気なオンナだからそいつをブッとばして居られなくなったのだろう。よくある話だ。

当然、戻ってくるたび確実に気が強くなっていて、彼女のアニメ系ロリフェイスの面影はドンドン消えていって、今ではもう完全に消滅している。

さて、この間オレが車で事故ってそのメンドクサイ処理を終え、事務所に戻ったときのことだ。彼女はオレに甘いコーヒーをいれながら「怪我はなかったか」という秘書としての当然の気遣いを見せた。

「でボス、相手はアンタの車を修理するカネもっているの?」

「イヤ、全然持っていないだろうー」

そこまではOKだ。ただこのあと彼女の言い放った言葉にオレはブッ飛んだ。

「カネがないビンボー人はネ、事故起こしてもどうせ修理代なんか出せないんだから、ボロい車でノロノロ運転してりゃいいのよっー」

「ギャッ」とオレは心の中でうなってしまった。

こここーこれはもう完璧にオトコの言い草ではないかー。ハードボイルドな日々を送っているオレも一瞬たじろぎ、彼女の顔ををグッと見つめてしまった。これはもう完全にオトコの世界だ。

彼女が入れてくれた甘いコーヒーを飲みながら、オレはぼんやり考えていた。

オレの周りにいるのは、仲間も客もアミーゴもいつもオトコばかりだ。
マナウスでもパンタナルでも、仲間はオトコだけ。
ヨーロッパやカナダや台湾の客やダチもみなオトコ。
東京に戻っても飲んだりするダチは100%オトコだ。
突然おれにメールをよこし相談を持ちかけてくる見知らぬヤツもなぜかオトコだけ。
オレの人生は幸か不幸か、オトコのオンパレードでオンナはほとんど登場しない。最近その事実に薄々気がついていたのだが、その日それが決定的になった。

つまり数少ないオレのマワリのオンナ、その貴重なオンナがモロにオトコ化していたのだ。

オレのオトコばかり人生は、多分これからも続いていくのだろう。そのことに文句はない。それはそれでいい。ただオンナがオトコ化し、オレのオトコオンパレード人生に追い討ちをかけてくるということだけは受け入れがたい。オレはその事実にズシンとみぞおちにパンチを喰らったようなショックを覚えた。そして熱心にPCに向かっている彼女の元アニメ系ロリフェイスの白い額を見つめながら、タバコを何本も続けざまに吸っていた。

=ブラジルのオンナはイイオンナだ。でもオトコになるかもしれない=

by フェリックス 2006年6月

 

 

 

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