美女の嵐


アマゾンへ行ってきた。
途中、マナウスで一年前までオレが深くその経営にエンゲージしていた事務所に顔を出した。もはや仕事はなく、いわば ”水戸黄門” のようなポジションだ。

オレは仕事を丸投げした後輩の車で事務所に向かった。
勝手知ったる事務所だから、ずかずか入りこむ。喉が渇いていたオレは、事務所にトランクを運び込みながら、秘書のデスクをロクに見もしないで

”水をくれ”

と頼んだ。すると聞きなれない声で

”コカコーラかビールもありますが”

と聞いてきた。

オレは床にトランクを置き秘書のほうを向いた。
一瞬言葉を飲んでしまった。

そこには、この事務所にはおよそ無縁だった正真正銘の ”美女”がいたのだ。

動揺を抑えながら、オレの後輩で今はそこのヘッドのSに聞いた。

「 誰だこの美女は 」

「 新しく入った秘書です 」

”ムムッー”

やがて、そのオンナはにこやかにほほ笑みながら、コーラをトレイに載せて恭しく持ってきた。

「 妙に感じがイイナ 」

「 昔のボスが来るので丁寧に応対しろといっておきましたから 」

「 よく見つけたなこんな美女を 」

「 学生ですよ、エスタジアリアといって研修ですね 」

このオンナやはり元モデルで、エキジビジョンのコンパニオンなどしていらしい。
ゴイアニアで最近なぜかクロスすることが多い、プロのモデルにない自然なよさがある。オレは自分のカメラを持ってこなかったことを悔やんだ。

” Sめ、なぜこんな美女がセクレタリーをしていると事前に連絡しないのかー
Sもオトコだったら自慢したいだろうがッ  ”

と心のなかで悪態をついた。

最初は緊張していたこのオンナも、事務所にオレが何度も出入りするうちにやがて慣れてきて、何か頼むと ウィンクで返事をするようになった。

聞くとこのオンナは、Sからオレのことを恐ろしいボスだったと聞いていて、それでとても緊張していたらしい。

それにしても感じのいいオンナだった。
この美女と、このオンナのボスである田舎者のSでは、全くコントラストとして合わないところが面白い。

”いずれやめるだろうーこのくらいの美女になるといろいろ声がかかるにちがいない”

空港へ向かう少し前、事務所でこのオンナが気を利かせて作ってくれたサンドイッチをつまみながらオレは考えた。

オレがブラジルにきて、本気で深く仕事にエンゲージしていたあいだ、それも決して短くない期間、オレの世界にオンナは無縁だった。これは何度も書いた。
それが仕事から離れた途端、美女がそれもほんとうの美女がオレの前に次から次へと現れる。何らかの形でクロスしてくる。これを喜んでいいのか、それとも何かの危険信号なのかー

ゴイアニアでは、プロのファッションモデル二人からオレを指名して写真を撮ってくれと申し入れが来ている。写真で見る限り、まちがいなく ”美女” だった。
オレはプロのカメラマンではないし、それで生活しているわけでもない。
それはモデルどもがオレが持っているカメラとレンズに興味があるからなのだがー

”タフでなければ生きていけない”

を標榜し、ガキガキやっていたオレの世界に花が添えられているのか
それとも危機がきているのかー

オレはそのことについていずれ結論めいたものを出さざるを得まいー

− 美女と猫は呼ぶと逃げる、呼ばない時にやってくる ブラジルでも −
 

(Photo by Felix)

by フェリックス 2009年3月

 

 

 

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