ヌード


この間、フォトスタジオを開いて独立した元秘書のMからオレの事務所に電話があった。

”今日これから仕事で写真を撮らなければならない。カメラマンが足りないので
手伝ってほしい”

という依頼だった。

オレは色々仕事がたまっていたのだが、なぜかクサクサしていてまるで進んでいなかった。気分転換にまぁ行ってみるかとMのスタジオに向かった。
あいにくオレは自分のカメラを家に置いてきたので、Mのカメラを一台借りることにした。どうせ被写体は、家族写真とか恋人同士のイチャイチャ写真だろうー

Mの事務所に着いた。
Mとその旦那の L は準備に忙しそうだった。
Lはウマを近所の農場から借りてきてスタジオの外につないでいる。
撮影の小道具らしい。
Mはスタジオの掃除に余念がない。
聞けば朝6時から撮影をしていて、いまスタジオに帰ってきたところだという。
メディア関係の有力者の娘と息子のフォトブックのための撮影で、バイクに乗っているところの流し撮りや、トラックで並走しつつの連写でクタクタになったという。

スタジオの冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、それをラッパ飲みしながらオレはスタジオの隅においてあるブックをパラパラめくってみた。Mが撮影と編集をし 、これからクライアントに納入するブックだ。相当腕をあげていた。日本人が大好きな
”写真道” 的なベンキョーはあまりしないが、スタジオを開いてから、ありとあらゆるファッション雑誌やフォトマガジンを買い込んでいる。それを連日眺め、ポジションを練ったりレタッチを分析しているらしい。

フォトショップはもとより相当ウマイ。そして、ある賞を受賞したことから営業的に説得力が増し、オープンしたばかりなのに結構仕事が入っている。スタジオや外でポートレートを何百カットも毎週のように撮影している。
うまくなるのは当然だ。

だからMの写真をみて、オレはすこし焦った。
 ”ヘタな写真は撮れないー ”

「なんの写真だ? 家族か子供か?」
とオレは聞いた。

ヌード

「えっ?」

ヌード写真、 裸のオンナよー

ムムムムゥーー

オレはヌード写真は撮ったことがない。
そのことをMに告げると、いかにもこのオンナらしいストレートな答えが返ってきた。

「それは大丈夫。、今日のクライアントから難しいリクエストはないからー
ただ −刺激的− に撮ればイイ」

ムムゥー

やがてダンナのLも呼ばれ、ダイレクションの打ち合わせが始まった。
複数のカメラマンで一つのブックの写真を撮るときは、写真の方向を決めたり、役割分担についての打ち合わせがないとうまくいかない。

MはオレとLに短いセンテンスでシンプルに指示を出した。

「今日の写真は芸術写真じゃない、記念写真でもない」
「ビジネスの写真、今日のモデルたちは彼女たちのビジネスに使うー」

オレはそれ以上聞かなかったが意味はすぐわかった。
そうかMはお嬢ちゃんやマダムやガキだけでなくて、こんなクライアントももっていたのかー

‘来るのは二人、20代前半くらい‘
‘思い切ってアップで撮ること‘
‘各パートをアップで撮ることをわすれないで‘

”パートって?”

オレは間抜けな質問をした。
Mは何を聞いているの?とでもいった様子で答える。

”バストとブンブン(ヒップ)に決まっているじゃない”
”スタジオと野外の両方で撮影する、バイクと馬を小道具でつかう
クルマのシートでも撮る”

オレとLは黙ってうなづくだけだ。

”全体の感じはそうネ、ほらアンタがボスだったときサイトで見せてくれた
なんとか言う日本の写真家の撮ったアノ感じかなー”

”テンメイかアラーキーか?”

”ああその アラーキー、アラーキー、でも白黒写真じゃない”

”ゲッ アラーキー!!!”

ーええぃ どうにでもなれー
ーオレがアラーキーみたいな形而下的形而上写真が撮れるわけねぇだろうー

やがてクライアントがクルマでやってきた。
20歳くらいのモレーナクラーラ(明るい茶色)と少し年上らしい金髪のブランカ(白)。
モレーナーのスタイルはすばらしく、細い脚がスラッと伸びている。
ブランカのほうはやや太めだがキレイなオンナだ。
多数の一流モデルを輩出しているブラジルだけあって、腰はクビレていて
ギターラインだ。


(Photo by Felix)

オレとLが金髪女、Mがモレーナを撮影することになった。
実際の撮影にはいるとオレは自分がMの示したダイレクションで撮る能力がまるでないのがわかった。まずポーズがうまくつけられない。
着衣のセンシュアルなかんじからフルヌードになる流れにモデルをうまく乗せられない。野外で乗せた馬が駄馬で、どうにもならない。

LはMにくっついて助手としてヌードを何度も撮っているらしく、慣れている。
だから勝手がわからずモタモタしているオレをうまくサポートする。

‘Tシャツまくって‘
とか

‘ここでジーンズ脱いで‘
とか

‘髪をかきあげて右に流して‘
とか

次々に指示していく。

野外の撮影をどうにかこうにか終えて、スタジオに移った。
着衣と違ってボディーの色しかないから、照明の勝手がわからない。
スタジオは資金不足で絶対必要なクーラーがないから汗ダラダラだ。
モデルのほうはイイ写真を撮ってもらいたいもんだから、こちらの指示に何でも応える。

とにもかくにも撮影を終えて、LとモデルとPCで写真をチェックした。
オレの写真はまるでダメ。
モデルは写真をみてキャァキャァ言って喜んでいるが、Mに指示されたダイレクションではまるっきり撮れていない。どうしてもグラビア的にゲージツ的に撮ろうとしている。
指示された ‘パーツの写真‘ は撮影に入ったら途端、頭からブッ飛んでいてー無い。

”Mのダイレクションは刺激的!だったのにダメだなこれはー”

やがてMも撮影を終えた。
そしてオレの撮った写真を見て呟くようにった。

「モデルの個人的な記念写真としてはいい、
でも引き受けた‘ビジネス写真‘としてはダメ」

モデルと年がたいして変わらない、アニメ系ロリフェイスのMが撮った写真を見ると、オレでは絶対に恥ずかしくて撮れないような写真がズラリと並んでいた。

 

−−− ブラジルオンナは刺激的だ、でも刺激的な写真は撮れない −−−

 

by フェリックス 2008年12月

 

 

 

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