食いモノを巡る戦い −その3−


飛行機のなかはガラガラだった。
ゴイアニアからサンパウロまでは、1時間強のフライトだ。ビールを飲みながら考えごとをしていると、もうサンパウロ上空に入っていた。あと数時間で勝負のときが来る。

勝負の帰趨は

”ヤツがいつもの問いをオレにしてくるかどうかー”

その一点にかかっている。

ヤツにとってその ”問い” は英文法に例えれば一種の付加疑問文に過ぎない。
だからそれに対する ”答え” には意味がない。
しかしオレにとっては絶対に必要なセリフなのだ。

オレは勝負を目前にして、イメージトレーニングに集中していた。翼が大きく傾き、黄金色の夕日に輝くサンパウロのビル群がウィンドウに斜めに広がっている。20度の角度で旋回下降を続ける飛行機の中で、オレはオリンピックに望むアスリートのように
勝利のイメージを頭に浮かべていた。

そしてライオンが水を撒き散らす国の小さな勝利に加え、もうひとつの記憶をなぞった。オレはたとえ小さな勝利でも、そののイメージを喚起しマイドセットしたかったのだ。

これもバブル期の東京でのことだ。
それは今、倒産の危機に瀕しているといわれる、アメリカを代表する巨大メーカーの孫ウケの小さな部品メーカーからメシによばれた時のことだ。その部品メーカーのアメリカ人の東京駐在員に取引先の担当者として接待されたのだ。

場所は、文京区にある古い屋敷を改造したフレンチだ。そこで、このアメリカ人と二人でメシを食うことになっていた。オレはそのレストランを名前は知っていたが、そこでメシを食ったったことはない。楠に囲まれたその屋敷に行くべく、オレは事務所を早めに出た。そのアメリカ人は接待上の儀礼にのっとり併設のバーでオレを待っていた。ヤツはアメリカ人特有の大げさな挨拶をし、オレは東洋的な薄笑いを返し、ともにテーブルについた。

やがて、ウェイターがやってきた。
胸にメニューを抱えている。
しかしそれは、メニューではなかった。
それはワインリストだったのだ。
そこは一応 ”一流っぽい” 構えのレストランだったから
考えてみれば当たり前のことだ。

やがてウエイターが細めのつくりのワインリストを恭しくアメリカ人に差し出した。
ヤツは落ち着いた素振りでリストを受け取る。
オレはそれをダマッてみつめている。

不意に

” このシーンはどこかで見たことがある ” 

とオレは感じた。
デジャブというやつだ、既視感だ
しかし思い出せないー

” 夢でこのシーンを見たのか? ”

そうではないだろうー

テーブルの向こう側ではアメリカ人がポケットからメガネを取り出し、
もったいぶった動作でワインリストを開こうとしている。

わかったー
これはオレが実際に見たシーンではない。

”コレはー、この状況はっー 昔、ボスから聞いたことのある
”あの状況” に違いない!‘

−−−− 続く −−−−

 

by フェリックス 2008年12月

 

 

 

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