食いモノを巡る戦い −その2−


食い物をめぐる戦いに勝利するチャンスはすぐ時間をおかないでやってきた。

サンパウロから戻ってからすぐ、事務所の仕事でまたこの南米最大の都市にいくことになった。そしてオレは、ゴイアニアの小さな事務所からヤツに電話を入れ、当然のように、サンパウロについた当日一緒にメシを食うことが決まった。

なんとなくオレは、その日のことをボンヤリとイメージする。

ヤツがホテルにピックアップにくる。
オレはロビーのソファーに足を組んで座っている。
黒いクルマがホテルの正面玄関にすべり込んでくる。
ヤツがクルマをドアマンに預けているのをオレはガラス越しに見ている。
ヤツがロビーにはいってくる。
座っているオレを見つけたヤツはニタリとわらう。
オレは軽く手を挙げて立ち上がりヤツの車に向かう。
ヤツは左にまわりこみ運転席に乗り込む。
ドアマンが右のドアを開けてオレを助手席に導く。
オレは助手席に座りウインドウ越しににチップを渡す。
ドアマンが軽く帽子に手をかけ返礼する。

”さてこの後だ、このあとの一分で主導権をもぎ取らなければならない”

オレは、日が傾いた誰もいない事務所でタバコを加えながら、
昔経験した ”食をめぐる戦い” について思いをめぐらしていた。

それは東京時代のことだ。

オレは仕事ででかけた東南アジアで食いまくり、バブルの花咲く東京で食いまくっていた。‘接待‘ という不思議な日本語の大義名分があった。

そのなかで、小さな勝利を挙げた ”食をめぐる戦い” についての記憶のカケラを呼び戻していたのだ。

マレーシアの先っちょにあるボールペンの頭ほどの大きさの、ライオンが港で水を撒き散らしている小さな国でのことだ。オレは華僑の取引先との鬱陶しい交渉を終え、その華僑の事務所からホテルに戻るところだった。その夜、その華僑から夕食に招待されていた。オレは華僑のクルマで一度ホテルに送り戻され、ころ合いを見計らってホテル迎えに来る段取りだ。オレをエレベーターに送りながら華僑がオレに問いかけた。

「なにが食べたいか?」

いきなりの質問で、オレは日本人のお約束どおりモゴモゴしていた。
すると、すかさず華僑がオレに次の問いを発した。

「高くてマズイものと安くてウマイものとどちらがいいか?」

その華僑の油ぎった顔に、主導権を握ろうとしている者がもつ余裕の表情が浮かんでいるのをオレは見逃さなかった。

”ヤツはオレの答えを予想しているー”

そのことについてヤツは100%自信がある。
仕事のくだくだしい交渉の場だけでなく ‘食‘ でもこの華僑は主導権をとるのがあたりまえだと思っているー

瞬間、いつもはオレの中深くに潜んでいる ”トゲ” が起動した。
そして静かに答えた。

「 オレが食いたいのはーーー 」

華僑は余裕の表情を変えていない。

「高くてウマイモノだ」

その瞬間ヤツの表情が変わったー

この話は華僑を通じ、当時オレが籍を置いていた東京の事務所に還流した。
叱責こそされなかったが ‘生意気である‘ という評判を高らしめるのに大いに寄与した。

−−−− 続く −−−−

 

by フェリックス 2008年12月

 

 

 

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