食いモノを巡る戦い −その1−


オレが深くエンゲージしているダチだちには、妙に食い物好きのヤツが多い。機会があればウマイものを食おうという、イジキタナイ連中だ。実はオレも食いモノが大好きでイジキタナイのは間違いない。ヒコーキでどこかのデカイ都市へいくとする。着陸体制に入り、翼が傾きだすころのオレは 、たいてい ”今日はなにかうまいモノを食ってやる” ということを考えている。オレのダチたちも似たりよったりだ。だからオレは、このダチ連中と世界でイロイロと、まぁうまいものを食ってきたほうだろう。

サンパウロにFというダチがいる。このオトコはボロ会社を買取り立て直して大成功したヤツで、赤丸付きの食い物好きだ。だからサンパウロに行くと 、よくこのオトコと出歩いていた時期がある。このダチはクイモノだけでなく、時計とかクルマとかバイクとかも
大好きだから、すぐ買ってすぐ飽きて売ってまた別のモノを買ったりしている。なにしろカネがあるからメルセデスやらBMWやらロレックスやらバシェロンなどに囲まれていて、オレと遊ぶ時は 、そのようなラインの店によく連れて行かれた。オレは一度ヤツと一緒に高級住宅街にある時計屋に乗り込み、雰囲気にのまれてチョー高い時計を買ってしまって破産しそうになったことがある。

さて食い物だ。
このダチがオレを連れていくレストランは、どこも間違いなくウマイ。フレンチもイタリアンもブラジリアンもジャパニーズもみなウマイところばかりだ。このオトコは 、本来のくいしん坊に加え仕事で毎夜どこかのレストランでメシを食っているから、情報量も圧倒的なのだ。ただヤツとレストランに行く時ひとつ引っかかることがあった。

それは

「これから何を食うか」

ということについての ‘決定権‘ をめぐる争いである。

このオトコは、夕方オレのとまっているホテルにピックアップに来る。
そしてオレがヤツの車に乗り込むと同時に聞いてくる。

‘ なにが食いたい ‘

‘ そうだなぁ − ‘

とオレは思案する。

ここまでのプロセスには全く問題はない。しかしこのあとがイカン。
オレが答える前にヤツが叫ぶのだ。

‘今日はイタリアンだっ イタリアンがいい!‘

そのあとオレのイメージのなかに

‘今日は大盛りのラーメンだ‘

というアイデアが浮かんできでも、その時にはヤツに ”イタリアン” と決定されていて、オレは意志決定のプロセスから完全置き去りにされている。なにしろ車はヤツのもので 、ハンドルを握られているからどうにもならない。第一オレには土地勘もない。食い物の方向を決めるプロセスを押さえられなかったオレは、しばし無言でアホ面で助手席に座っているという具合だったのに違いない。クルマはイタリアンに向かって爆走していた。

”クソッ”

と、オレはイラだった。思い起こせば、もうこのようなことがオレとヤツの間に2−3回続いていた。全敗だ。一見、SPに遊びに来たオレの意志を尊重するようにみえて 、ヤツのなかでは ”今日何を食う” ということがあらかじめ決定されているのだ。オレは ”食いたいものを決めるプロセス” のなかの脇役にすぎなかった。

しかしイジキタナイオレは、冷たい炎をメラメラと燃やしながら考えていた。

「オレは田舎からわざわざSPまで乗り込んできているのだ、だからオレがゲストだ」

「何を食うか決めるのはヤツではない。このオレであるはずだ!」

「二度とヤツに主導権を渡さないーーーー」

しかし、それにはなにより準備が大切だー
とオレはツブヤイていた。
ココロの準備だ。

−−−− 続く −−−−

 

by フェリックス 2008年12月

 

 

 

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