秘書M


オレの秘書を長い間していたMが、独立して最近フォトスタジオを開いた。そのMが、まったく突然にあるビジネス関係の賞をもらった。ブラジルは中西部の一地方都市の賞にすぎないから 、全国的にみれば大した賞ではない。しかし、この町で仕事をする限りその受賞歴がどのくらいビジネスにプラスになるかオレは知っていた。というのはオレが事務所を開き少し仕事に慣れたころ 、この賞を取れないものか、柄にもなく思案したことがあるからだ。その時この賞の関係者にあったりして調べたことがあるのだ。やがて、当時のオレの事務所の仕事の筋ではこの賞は取れないことがわかり
頭の中から消した。それからもう何年もたつ。

さて、このMのことだ。
どこかに書いた記憶があるが、Mは気が強く自己主張の強いオンナだった。おまけにワガママで思い込みが激しく、その思い込みを取り去るのは至難の業だ。だから予想通り、オレのマワリにいる日本人や日系人は枕を並べて全員がMのことを苦手で
批判的かネガティブだった。第一印象がどうだとか、金にウルサイとか、実は冷たそうとか、生意気とか、口で負けるとか、誰とかがこう言ったとか、自分勝手とか まぁいろいろな理由があった。当初オレはイチイチ ‘そうでもない‘ とか言っていたが、そのうちメンドクサくなり  ‘あぁそうだね そうかもしれないね‘ とテキトーに答え聞き流すようになった。要は ‘日本人と肌が合わない‘ ということなのだろう。

オレは当然仕事で深くMとエンゲージしていたから、一見難しいオンナに見えるMのいろいろな側面を知っていた。

例えば、

ーブラジル人のダチが沢山いてそのダチたちがなかなかのレベルであること

ーカネに関してもウルサイがよく言うことを聞いてみるとマットウなこと

ー家庭は貧しいが、元は中流で父親の事業の失敗で没落した家庭であること

ー家族の学歴が高いこと

ー強い自己主張のなかに微妙に相手の立場への配慮があること

などなどだ。

この辺の見立ては、ブラジルでブラジル人を安い給料で雇うならオロソカにはできない。

そしてMにはもうひとつオレにとって重要な特長があった。

”カネについてストレートに話す‘

ということだ。

それは給料や待遇のことだったり、どうしたら儲かるかーなどの夢想だったりで、オレには鬱陶しいハナシか、どうでもいいハナシなのだが、Mは必要とあらばそのようなカネがからむ話を真っ向ストレートにしてくるー  という特長があった。その話し方のニュアンスが重要なのだが、それをオレは文章にすることができないから省く。

ただオレに確信があるのは、仕事で絡んでくるブラジル人で

”カネのことストレートに話さないヤツ”

”妙にカネの話を避けるヤツ”

とは関わってはならないということだ。

それはオレがはるか昔、事務所を開いたときからの数年間、いろいろなブラジル人との接触の中で体感したことで、”なぜ?”と言われても理由はない。しかしオレは 、そのことについて確信がある。カネの話を妙に避けるやつは、他人のカネにだらしないか、欲が深いか、いい加減なヤツか、実力がないか、自信がないか ーそんなヤツが多い。だから仕事をしてもゴタゴタする確率が高い。

さてMのことだが、オレはMの受賞のハナシをアマゾンで聞いた。オレはMがフォトスタジオを始めるとき、一定の協力を約束しそれを実行した。その代り 、Mは仕事が入ったらオレにいくばくかのカネをくれる約束だった。オレは、それがずいぶん先のことになるだろうと予想していた。しかしMが突然に受賞し、そのことがこの町のいろいろなメディアに紹介されたから、オレがアマゾンから帰 ってみるとスタジオの撮影スケジユールは予想外に埋まっていた。

Mは受賞パーティーの様子をうれしそうの話したあと、何枚かの札を無造作に握りオレの前ににゅっと突き出した。

”これはアンタの取り分だ”


−−−− ブラジルでは ”秘書” から小遣いをもらうこともある −−−−

by フェリックス 2008年12月

 

 

 

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