ハンバーガー事件


オレはいまアパートに住んでいる。

そのオレの部屋から外資系ハンバーガーチェーンの黄色いアルファベット1文字の看板がモロ見える。深夜PCを相手に、こ難しいソフトにイラつきながら写真の整理をしていたオレは 、煙草をくわえふと外を見た。

いつものように黄色いアルファベットの、あのありふれた看板が視界に入った。そして唐突に数年前にこの町でこの世界的ハンバーガーチェーンのフランチャイズをめぐって起きた ”事件”を思い出した。

事件といっても、ブラジルの新聞やテレビをほとんど見ないオレには、どの程度騒がれたのかわからない。このネタは、当時オレの事務所のPC関係の修理や組み立て
を一手に引き受けていて始終事務所に出入りしていた”F”というダチから聞いた。

PC修理屋は、細かい町の情報をたくさん持っている。
いろいろな家や商店や事務所の、それも奥まで出入りする仕事だからだ。

そのころのブラジルのPCは壊れまくっていて、ファックスモデムというと

"紙の差し入れ 口はどこにあるんだ!"

と騒ぐ連中が少なくないレベルだったから、良心的な仕事をする”F”は、引く手あまただったのだ。ネタの仕入れ元が町のフツーの連中で無防備にしゃべるから 、Fがオレに持ってくるネタの鮮度は高く、この田舎町の細かい動きがよくわかった。

さて、ある日Fがオレのアパートに来て、修理をしながらいつものように無駄話を始めた。

” 最近 ゴイアニアのハンバーガー屋の看板が降ろされたのを知っているか? ”

” 知っている、この間、食いに行こうとして知った ”

” ゴイアニア全店ではない 、半分が閉まった ”

ゴイアニアにあるフランチャイズは5店だ。
そのうちの3店が閉まった。

Fの話では フランチャイズのオーナーが3店と2店に分かれていて、一人のオーナーの持っている店三軒だけが閉まったということだった。

” 儲からなくてやめたのか ”

” 儲かったか儲からなかったかはわからない、でも −ヤメた− のではない
−ヤメさせられた− らしい ”

” そうか契約違反か ”

” オレが聞いた話ではーーーーー”

Fの説明によると、閉められた店のオーナーは30ソコソコの若造で大金持ちの息子らしい。

因みに”外資系”ハンバーガーはゴイアニアでは庶民の食い物ではない。
別に金持ちの食い物でもないが、そうだな 東京でいえばちょっといい回転寿司に行くくらいの感覚だろう。だから、金がなくてピーピーしている町の大半の連中はこの食い物とは無縁だ。まして店のオーナーは金持ち、とここでは相場が決まっている。

このオーナーの若造は、この世界ブランドのフランチャイズをしばらくやってみてこう思ったらしい。

 

ー ウハウハもうからない ー

 

” でもってヤツは、チェーンの仕入本部からの肉の仕入れを大幅に減らした ”

” ホウ ”

” コーラーも仕入れが極端に減った ”

” −−− ”

” で、急に売り上げが減ったのを不思議に思ったサンパウロの本部の連中が
ゴイアニアに乗り込んできた ”

そのあとの話はこうだ。

急に売上が減ったのを不審に思った仕入本部の連中が、サンパウロからゴイアニアに乗り込んできた。調べてみると、仕入れは異常に少ないのに 、肉は冷蔵庫にたっぷり入っている。コーラもバンバン売っている。売れていない様子もない。

やがて彼らは肉の 見た目 がおかしい事に気がついた。
コーラーも味がおかしい。

” でどうなった? ”

” 肉は仕入本部のものとは別物だった。コーラもコカコーラではなかった ”

” 安い肉をつかったのか? ”

” そうだ ”

” 肉をどこから仕入れたか知っているか? ”

” −−− ”

” そこら辺の安い肉屋だ。 オレとかオマエが買っている卸兼店の町の肉屋から
肉を買い叩いてそれをミンチにした ”

” コーラは? ”

” アメリカンコーラだ。知っているだろう、毒々しい星条旗のラベルが貼ってある
ダサイボトルを。 コカコーラの半分以下の値段でスーパーに山積みされている
アレだ ”

”それを大量に仕入れて、店のコカコーラのマシンにぶち込んで
売りまくっていたらしい ”

つまり、この若造のオーナーは、そこら辺の肉屋から肉バンバンを仕入れミンチにして
”本部伝授の塩コショウ”で似たような味に仕立て上げバンバン売っていたわけだ。本部からの仕入れの20%くらいのコストだろう。ヤツはコカコーラの味などどうでもいいと思ったのに違いない。

− 安ければイイ たかが黒い色の炭酸飲料だ −

”で、その若造はいま何しているんだ 謹慎中か?”

”毎日 ディスコで目の玉の飛び出るようないいオンナをつれて遊びまわってるって話だ”

この大金持ちの若造にとって 儲からなければ、超有名なブランドも鬱陶しいだけのシロモノだ。アメリカ仕込みのマニュアルもただの紙切れにすぎない。

なにしろ ”簡単に” 儲からないんだから。

帰りがけにFが言った。

” この話はこれからゴタゴタするぜ。 本部はフランチャイズ権を取り上げるべく
 裁判にはいるだろう。”

” 若造も もうからないとか仕入れが高いとか マニュアルがダメだとか
わけのわからない理由で バンバン裁判に入るだろう ”

” そして本部はヤツに翻弄されるだろう ” 

オレはこの話を思い出しながら、アンコが古いとか ミルクが賞味期限切れだとか
で国をあげて大騒ぎし 店を廃業寸前まで追い込みオーナーが自殺寸前までイジメられる日本は ”どこか別の惑星にあるのにちがいない” と確信をもった。

しかし、この若造はスゴイやつだ。アメリカのブランドもマニュアルもクソもない。
儲からなければ相手が悪い!

ー会うと意外に小気味いいヤツで、オレは好きになるかもしれないー
とオレはなんとなく思った。

しかし、こういうブラジル人にオレは100%勝てないだろう
いやオレだけでないはずだ、日本人は全員負けるー
アメリカ人もドイツ人も韓国人もキット負ける。
いやたった一人この若造に、ブラジルのすごさに勝てるヤツがいる
間違いないーーーーー

それは

= 中国人だ =

静かにそして力強く思った。

 

−−− 世界にはタフなヤツがいる。 南米にもいる。 アジアにもいる。 −−−

 

by フェリックス 2008年9月

 

 

 

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