クルマ 後編


その中西部一番の規模を誇る中古車フリーマーケットは、サッカースタジアムの駐車場で開かれていた。サッカースタジアムはブラジルのことだから、軽く十万人は入る規模だ。だから駐車場もやたらとデカイ。そこに業者や個人が持ち込んだ車が何千台と置かれていた。

最初はその規模に新鮮な印象をうけて興味を持ったが、売られている車は、やはりブラジル製ばかりだった。クルマ、それも乗用車の印象はまずデザインできまる。デザインが悪ければクルマとのしての価値は半減するのだが、その点でこの自動車フリーマケットもやたらにデカイだけでまるで面白くない。

しかし −何でもいいから車を買う− ことに決めていたオレは、気ものらないままクルマを見ていた。駐車場の端っこにオープンカーが ポツン という感じでおいてあった。そのクルマは白い色に塗られていて、幌は開いてある。フォードのESCORTだ。欧州を中心に売られていた大衆車で排気量2L以下、レンタカーでは下から二番目くらいのカテゴリーのクルマだ。欧州ではすでに型落ちのモデルだったが、それでもブラジル車のなかでは少しはマシに見えた。

オレはちょっとそのクルマに気を引かれ、シートに座ってみた。頭上には乾季のセラードの青空が広がっている。このクルマで郊外の牧草地帯をオープンで駆ると気持ちがいいにちがいない。

オーナーと話を進めるうちにとんでもない事実にぶち当たってしまった。アルコールを燃料とするエンジンだったのだ。

いまでこそブラジルが世界に売り込んでいるシロモノだが、10年前はその存在は一般には知られていない。オレはアルコールエンジンがブラジルで普及していることは知っていたが、自分がエタノールなる燃料で動く車に乗るなどと想像したことは一度も無かった。オレにとっての内燃機関はガソリンエンジンに他ならない。仕事で使う車はどうでもいいが、オレ個人で乗るクルマはガソリン以外は考えたことも無い。コモンレールでもディーゼルには興味が無い。ましてアルコールなど問題外だ。これは今にいたるまで変わらない。そのオレがそのデカイだけのフリーマーケットで、サトウキビの絞りカスで動くクルマを買う交渉をしていたのだ。

躊躇したが、まあ一度くらいいいかということでその車を買った。3年落ちですでに3万KM走っていて7200ドルだった。

アルコールエンジンとはいえ想像していたほど悪くは無かった。馬力もガソリンと同じくらいアリ、燃費はやや悪いがその分安い。冷え込むとエンジンがかかりにくいデメリットはあったが、それ以外実用での不都合は無かった。

オレがこのEscortで気に入ったのはトランスミッションのギア比がClose Ratioになっていたことだ。トルクバンドが狭くピーキーなエンジンで3−4−5速では頻繁にシフトダウン、シフトアップを繰り返さないとトルクが落ちてガクガクする味付けになっている。スポーツカー的なドライブをするには、エンジンのトルク特性をよく頭に入れてギアチェンジをする必要がある。それが面白いのだ。先進国では Close Ratioはすでにスポーツカーの演出の”古典的手法”にすぎず、時代は中速トルク重視のどのレンジでも運転しやすい味付けに変わっていた。ブラジルではその過去の遺物  Close Ratioがまだ残っていたのだった。

さて、そのEscortだが、晴れた日は幌をあけて頻繁にシフトを繰り返しながら事務所に行くのだが、それが楽しかった。フルオープンとサンルーフなどのスライドタイプでは、開放感がまるでちがう。当初はすぐ売ろうと考えていたが、このEscortには3年乗った。オレはその後アルコール車には乗っていない。

今のブラジルでは、メーカーもモデル数も増え、先進諸国とだいたい同じモデルを入れているが、そのラインナップは低所得層重視のためパッとしないし、相変わらずボロイわりに値段が高い。内装も野暮ったい。カラーも銀や白や黒ばかりでまるでさえない。FLEXというブラジル自慢のガソリンもアルコールも両方使えるエンジンを搭載したクルマにもオレはまるで興味が無い。

広角の眺めで気分のいいブラジルの中西部の道を、北米マーケットで復活が決まっているV8−OHVのDodoge Challengerで走りたいとオレは本気で考えているのだがー

それが実現するにはまだ時間はかかるだろう。

−− ブラジルのクルマはボロイ、でもClose Ratioが手に入るかもしれない −−

by フェリックス 2006年11月

 

 

 

HOME