クルマ 前編


オレは "モノ" が大好きだ。だからブラジル製のモノ、とくに工業製品は気にいらない。だいたいがチャチでボロい。だから使いたくないし買いたくもない。ブラジルに来て一瞬で日本とブラジルのモノの間に横たわる、気の遠くなるような品質の差がわかった。

”我慢をする” のが苦手なオレは ”我慢をしない” 道を即選んだ。莫大な?資金を投じ、服は全部、皿一枚、スプーン1本、タオル一本、果ては消しゴム、鉛筆にいたるまで日欧米から機会があるたびに大量に持ち込んだのだ。たが ”クルマ” だけは持ち込めなかった。

オレはガキの時からクルマが好きだった。イシゴニスのMINIが好きで、ゴルディニのアルピーヌが好きで、ピニンファリーナのフェラーリが好きで、Dブラウンのアストンマーチンが好きだった。ところがブラジルにきたら、見たことも聞いたこともない、古ぼけたトースターのようなダサいクルマが町中に充満していた。

ブラジルは国内産業保護のため、長いあいだ外資をいれず経済鎖国状態を続けたため、工業化で先進諸国に大きく遅れをとっていたのだ。90年代はじめに経済鎖国がおわりクルマの輸入が自由化された。オレがブラジルに住み始めたころは輸入車が市場に出始めたころで、売られているクルマはブラジル製のダサいクルマがまだ圧倒的に多かった。

ブラジル製とはいえブランドだけはGM、FORD、VW、FIATと世界の大メーカーの名前が冠されている。しかし、その売られているモデルは先進国のモデルとはまったく別物の、見たこともないシロモノばかり。オレにとってブラジルのクルマ社会は 「灰色の世界」 にしか見えなかった。アストンやポルシェの世界など三万光年かなたに吹っ飛んだ。

さてブラジルではクルマがないと ”普通の生活” ができない。この点アメリカとよく似ている。リオデジャネイロのような大都会ならまだ何とかなるかもしれないが、ゴイアニアのようなだだっ広い地方都市ではクルマがないとどうにもならない。

「まずクルマを手にいれなければならないー」

ブラジルにとっての輸入車、この値段を調べて見るとトンデモない値付けがされているのがわかった。
カローラやシビックが日本の倍以上の値段で売られている。輸入関税が高いのだ。日本の大衆車がブラジルではほんの一部の人しか買えない高級車として売られているのだ。バカ高いカネを出して、日本の大衆車にわざわざブラジルで乗る気はしない。ついこの間まで見向きもしなかったクルマだ。

欧州モデルは高くて手が出ない。BMWやMercedesは異常な値段であった。オレはその値段をみて「ロケットよりは安いナ」というイメージをもった。

となるとブラジル車しかないー

オレが思案をしている様子を見ていた相棒が

「ブラジル製の中古を買え、オレが中古車市に連れて行ってやる」

と言ってきた。そして次の日曜日、気乗りしないオレは、相棒とゴイアニアの大中古車市なるものに行くことになった。それはブラジル中西部でもっとも大きい中古車市というふれこみだった。

− 続く −

by フェリックス 2006年11月

 

 

 

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