トイレ関係との戦い 2


オレはその後、このChoqueとよばれる電気ショックに処女のように慎重になった。

最初のサンパウロでの「シャワーの通電ショック」はオレの脳髄に直に焼きこまれ、肉体的トラウマとして深く記憶された。ゴイアニアに戻ってからもシャワーには疑い深くなり、アパートを借りるときはまずシャワー室
の「通電状態」を徹底的にチェックした。この慎重な調査により、オレのアパートでも事務所でもいくつもの
”電撃ショック確定大漏電状態”のワナを発見した。オレはできる限りの対処をし悲劇を回避してきた。

ある時は、シャワーのコックに発砲スチロールをまきつけガムテープでグルグル巻きし、洗濯機にはブラジルであまり普及しているとはいえないアースを取り付け、電気屋のオヤジを呼んで配線を改良したり、かなりのエネルギーと資金を投入したのだ。

なにしろ我らがゴイアニア市は220Vの高電圧である。このショックをモロにうけたら、そのショックはきっと「神の啓示」とか「法悦」レベルであるに違いないと確信していた。

従業員や秘書に事前に「漏電確認試験」を頼み込んだことこともある。彼らは何度か運悪くワナにはまり一瞬アゴをのけぞらせながら「神の啓示」を受けその恩寵に浴していた。

意外なワナはコンピューターにあった。デスクトップPCのタワーBOXの側面の板がヤバイ。このPCの即板がしばしば巨大な”電極”と化している事実にオレは気が付いたのだ。というのは、ある日事務所に友人のFがPCを修理に来ていて、修理中に「グエッ」とか「ギャッ」とか「イヒーッ」などの奇声をなんども発し、ローマ法王をはるかにしのぐ啓示を受けて法悦にひたっているのを見たからだ。そして、オレの仕事が「ブラジルでPCを修理する」仕事ではないことを心から神に感謝したものだ。

さて「凶悪220Vの電撃ショック」に対して猫のように慎重になっていたオレも、完全にそれを回避することができなかったー ことを告白しなければならない。

何故回避できなかったかー今から考えても結論は出ない。

多分その「意表をつく攻撃」と「気のユルミ」が原因だったのだろう。

オレの東京時代の仲間が2人アマゾン釣りに日本からやってきた時のことだ。オレはアマゾン案内人として張り切っていた。その時に行ったのは、アマゾンといっても本流ではない。ゴイアニアから車で半日くらいのところにあるアラグアイア河近くのサンミゲル市に一泊し、バナナアイランドといわれる素晴らしい釣り場に船で行く算段だったのだ。そして1日目、サンミゲル市のポーザーダとよばれる民宿のようなところに泊まった。

ウキウキ気分のオレタチは楽しくて、日本の事など語らいながら道中を好調に過ごしていた。ホテルで荷物をといた後、まずオレがシャワー室にはいった。シャワーヘッドはニクロム線タイプ。オレは慎重にシャワーの握りに小指でタッチし通電試験をした。問題ない。熱いシャワーを浴びいい気分で頭を洗い、背中をこすり、
オレの洗浄行為はフィニッシュに近づき足のパートに移行しつつあった。すべてがスムーズだった。オレは足の下の方を洗おうと思い片足を上げ、石鹸をそこに塗ろうとした。しゃがむ姿勢で手を足に近づければよかったのだが、不精なオレは足を上半身に近づけようとして片足状態になったのだ。

一瞬身体のバランスが崩れ、オレは本能的につかむものを探した。そしてそれは目の前にあったのだ。

シャワーヘッドとコックを結ぶ鉄のパイプ。

オレはなんの疑いもなくしっかり濡れた片手でそのパイプを力強く握り締めた。

その瞬間、オレは宇宙の神秘というか無限に広がる銀河系を見たように思う。輝く星座の一群を。その時オレの頭の中でなっていたサウンドはDeep Purpleの「ハイウエィスター」のような気もするしワーグナーの「マイスタージンガー」だったかもしれない。「ツァラツストラはかくか語りき」の可能性もある。

オレはシャワーを終え、部屋に戻り「電撃ショック」について友人に明確に伝えた−。しかし、大文明国から来た彼らはその意味をカラダでは理解はしていない。そしてしばらくして、ベッドにグッタリと横たわりながら朦朧としているオレの耳に「グエッ」「ギョエッ〜〜〜」という叫びが聞こえてきた。

=ブラジルは最高に楽しい場所だ。間違いない。もし”電撃的ショック”がなければ=

by フェリックス 2006年10月

 

 

 

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