海外安全情報


オレのところには日本からダチや知り合いがよく来るのだが、その前にブラジルについて色々な質問をされる。まぁ地球の裏側だし、半裸のオトコとオンナが一日中サンバで踊り狂っているという程度のイメージしかもっていないヤツが多いから、真面目に答えてやっている。ヒドイやつになると The Amazon Touch のヤローどもは、アマゾン河とパンタナル湿原の水辺に掘っ立小屋建てて住んでいて、投網で魚を取ったり、カピバラかなんかをとっ捕まえて喰って、みなで自給自足の生活をしていると想像したりしているから油断がならない。

質問のなかで圧倒的に多いのが

「サンパウロは超アブナイと聞いているが大丈夫か」

「リオに寄りたいのだがオソロシイと聞いている、大丈夫か」

「サンパウロに夜つくのだが、ホテルまでの道中が心配で心配で」

「リオは夜八時以降は外出しないほうがいいと言われたがどうしたらいいか」

の類だ。

ただでさえよく知らないブラジルの、治安ではとくに評判の悪いサンパウロとリオデジャネイロについてシンパイでシンパイでしょうがないらしいのだ。オレは日本のテレビで、リオやSPの殺人強盗誘拐警察対悪党監獄占拠武装鎮圧街焼討等々の映像が流れているせいなのだろうと思っていた。いちいちクドクド説明するのもめんどくさいので最近は

「オウ 危ない、来るのは中止したほうがいい、リオデジャネイロのかわりに箱根か熱海に行くのがいいだろう」

とか

「サンパウロでは少なくとも防弾チョッキと機動隊のメットは用意しておいたほうがいい、バズーカも揃えろ。これでもう安心だ。ホテルからは夕方5時以降は一歩も出るな、夕食は日本から乾パンなど持参したほうがいい」

と答える事にしている。

オレはリオ、サンパウロには数え切れないほど行っている。
モチロン、午前零時前にホテルに戻ることはまずないし、夜九時前にレストランに出かける事もない。華やかな南米を代表する都市、リオとサンパウロが花開くのは夜の九時以降に決まっているではないか。リオとサンパウロほど夜が楽しい街も少ないのだ。

リオとサンパウロの夜は南米トップのエンターテイメントワールドなのだ。

そのうちオレはリオ、SPについて心配そうに聞いてくる人たちに共通する事実に気がついた。オレはそれまで「ブラジルは治安の悪いところ」というイメージは日本のテレビでしばしば流れる、SPやリオについての犯罪関係のニュースのイメージによるものと思っていた。ところが、どうもそれだけではないらしいのだ。ブラジルに来たい多くの人が、インターネットで外務省の「海外安全情報」を見ていて、それでリオとサンパウロにビビリまくるらしいのだ。これを見るとリオ、サンパウロはもう無法地帯のように読める。

ビビリやすい日本人がみたら、もう心配になるのは容易に想像がつく。
そうか、最近はインターネットでの「海外安全情報」が標準情報ソースになっているのか。

しかし、アレだけ治安にビビる日本人がどうして海外でこうも無防備な雰囲気を全身に漂わせているのかーオレにとっての日本人7不思議のひとつだ。

さて3年ほど前、オレはブラジル北東部の大都市フォルタレーザの空港でリオ経由ゴイアニア行きの飛行機を待っていた。おなじ待合室にボロいTシャツにサンダル、頭にバンダナを巻いた30くらいのオトコが同じ飛行機を待っているのに気がついた。一瞬で日本人とわかった。中国人、韓国人はボロTシャツ、サンダル、バンダナというスタイルでは飛行機には乗らない。とはいえ、言葉を交わすわけでなく時間が過ぎていった。そのときは飛行機が大幅に遅れて出発、リオに着いたときは、すでに深夜零時を回っていた。

客は当然VARIGに交渉し、リオに泊まる手配をさせた。もう乗り継ぎ便は出払っていて、その夜はリオに泊まるしかないのだ。その交渉で、リオのガレオン空港でVARIGの職員とガタガタやり取りをしていると、先ほどの日本人らしきムサイオトコがオレに声をかけてきた。ポル語がわからないという。彼はクリチバかどこかに行く途中で、乗り継ぎ便がなくなり、リオに泊まるしかないという、まぁオレと同じ状況だったのだ。聞くと、 中米某国に2年の任期で日本政府のナントカという機構の派遣で来ていて、今は休みを取ってブラジルに来ていると言う。

オレはこのオトコの分のホテルも交渉した。
VARIGは「空港近くのホテルにするか、それともコパカバーナのホテルにするか?」と聞いてきた。コパに泊まっても明日はTAXIを迎えによこすという。コパガバーナのホテルがいいに決まっている。コパにはレストランもバーもナイトクラブも何でもあるのだ。空港の周りには何もない。


さて、オレはこのオトコも当然コパのホテルに泊まりたいのだろうと思い、
「コパのホテルでいいな」
と聞いた。なにしろあご足つきのタダなのだ。

しかし、答えは意外なものだった

オトコ「空港の近くのホテルにしてください」

オレ「空港近くのホテルなどなにもない、明日も午後便でいくならコパが楽しいと思うがー」

オトコ「リオは危ないアブナイといわれていてー」

オレ「オレはコパのホテルにした、チェックインのあと街で一緒にビールでも飲むか、メシもろくに喰っていないし」

オトコ「海外安全情報をみてもリオはめちゃくちゃ危険と書いてあるし、いま住んでいる国の友人からもリオは危ないアブナイといわれてます、ボクーホテルに籠もっていますぅ〜」

オレはちょと驚いた。カレは少なくとも中米に一年以上住んでいるのでないのかー

オレはなにか馬鹿馬鹿しくなってこう答えた。
「そうダナ、その通りだ、夜はこのまま、冷蔵庫のピーナツでも食べて寝たほうがいい」

オレはVARIG手配のTAXIに一人でのり、夜のリオをコパカバーナのホテルに向かった。車の中でオトコがオレに言っていたことを考えてたいた。このオトコは、今いる国での任期が終わったら、個人でそこに残りそこで仕事を見つけて住み続けたいらしい。任期が終わったら、日本国のプロテクトは完全にはずされ大企業の庇護もない。そして南米という闘技場にグラディエーターとして、たった一人で出て行かなければならない。ありとあらゆる障害がまっている闘技場にだ。

−あのオトコ、中南米で一人でサバイバルできるのだろうか−−

やがてTAXIは、コパのホテルに到着し問題なくチェックインした。もう深夜1時を回っている。部屋でタバコを一本吸った後、ポケットにいくばくかのカネを突っ込んだオレは深夜のリオに一人で繰り出したのだった。

−− リオ、サンパウロの治安はイマイチだ、でもパウリスタとカリオカは夜遊ぶ−−

by フェリックス 2006年8月

 

 

 

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