アメ


オレがブラジルに移る前、まだ東京に住んでいたころだが、ごく短い間に南米に7回遊びに行った。そのころはバブル経済の真っ最中で東京は楽観主義に満ち溢れ、証券や銀行では5000万円以下の客は「ゴミ!」と呼んでるらしいなどとまことしやかにささやかれていた。

サラリーマンだったオレは、平気で夏冬それぞれ二週間くらいの休暇をとっていた。オレが仕事をしていた会社は典型的な「東京の会社」で、社長も幹部も先輩も後輩も東京出身が圧倒的に多かった。社内報で社長と部長が「江戸っ子論争」をするような雰囲気があった。とてもリベラルで束縛感のない自由な雰囲気の会社だったのだ。オレはバブル経済とリベラルな職場の雰囲気にワルノリし、クリスマスの前からなんと18日間ストレートで休暇をとって、高校の友人二人とアマゾンに釣りに出かけた。オレのBOSSはオレの休暇とほぼ平行してフランスに遊びに出かけていたから、いまの日本ではとても信じられないような時代だったとつくづく思う。

さて釣りの目的地は、アマゾンの大支流のひとつアラグアイア河だった。今住んでいる町ゴイアニア市までサンパウロ経由飛行機で行き、そこからチャーターした寝台バスでアラグアイア河沿いの小さな街、サンミゲルまでいった。そこから「バナナ島」というこれはスゴイ釣り場に行ったのだ。

ゴイアニア市からサンミゲル町までの約400キロの道中が、オレには楽しかった。見るもの聞くもの、当時仕事でいっていたアジアの町とは雰囲気が違う。大国らしくノンビリしていて、開放的な感じだった。

道中何回か、バスは小さな町に停まった。そこでオレたちは、スーパーによってお菓子を買ったり、釣り船に積み込む食料を買い足したりしたのだった。ゴイアニアを出てから最初に停まった町のスーパーで、といっても田舎のナンデモ屋といった雰囲気のスーパーなのだが、そこで買い物をしたとき、オレはレジでまだ慣れていないブラジルのお札を出した。するとレジのオンナの子がお釣りを渡しながらオレに

「ナントカ、ナントカ ネ!」

といってニッコリ笑った。そして一掴みのアメを広口ビンから掴んでおれの手のひらに握らせてくれたのだ。オレはその瞬間それが何のことだかわからなかった。スーパーを出てバスに乗ったあと、オレは「アメ」について考えた。

−これはひょっとすると、ひょっとするとぅ

オレのことが気に入って好意し示すためにくれたのかもしれない!!!!
でもでもぉ〜 そんなことはぁ〜 いやぁヤッパリ
いやぁ、そうかぁ そうだよなぁ〜
ウキウキしているオレを乗せたバスは快調に走っている。

しばらくしてバスはまた小さな街で停まった。そこでオレは、タバコなどを買い込んだ。レジで金を払うとなんとまたレジの若いネーチャンが

「なんとかかんとか ネ!」

といいながらお釣りのお札と一緒にアメを一握りニッコリ笑ってオレに握らせてくれたのだ。

オレは確信した。そうかぁ、そうだったのかぁ、いあや参ったなー。
同行している高校の友達は別のレジだでなにか買っていたがアメなんかもらっていない。オレはニマニマ、デレデレになってまたバスに乗った。バスの中で友人にもらったアメを優越感に浸りながら配ってやった。

「これレジのオンナの子がまたくれたんだよね、なにキミタチもらっていないの、しょうがないね、、まぁゆっくりアメでもナメなさい」

しかしオレってそんなイイ男だったのかぁ、日本のオンナはまったくわかっていないな〜、オトコの価値が。ブラジルのオンナはよくわかってオル。

やがてBUSはアラグアイア河のほとりについた。船に荷物をつみ終えたときに、同行の日系ガイドにアメを差し出した。

「コレ、立ち寄った街のスーパーでオンナの子がくれたんだけど、しかも二人のオンナのコがネ。なんかいいながらくれたの。」とオレ

ガイドは黙って聞いている。

「いやぁまいりましたよ。コンナものモラッてもしょうがないんだよね〜。いくら彼女たちに親切にされてもオレ、なにもしてあげられないしぃー」

ガイドはまだ黙っている。

「しかしブラジルの娘はイイですねぇ 気持ちをストレートに出すんだねぇ」

オレはニヤケながら今から考えると信じられないようなことをわめいていたのだ。

やがてガイドが言いにくそうに、申し訳ないといった感じでオレにこういったのだ。

「XXさん、そのアメは店に小銭が足りないんで、その代わりのオツリです。よく少なめに渡すヤツがいるんです」

「おつりの代わりに安いアメ渡して儲ける仕組み」
「彼女たちがアンタに言っていたのは、【お釣りが足りないんでアメでいいでしょっ】なんですね」

エッ なにオツリ、アメはただのオツリ?! しかも本来もらうオツリより少なめ?
デレデレにやけていたオレは一挙に10000メートルくらい急降下した。
オレはココロのなかで泣き叫んだ。屈辱と恥ずかしさで身体がカッと熱くなった。

「くそぅ くそぅ オレが馬鹿だった、オレがぁークソッ クソゥ 恥かかせやがってぇ
ブラジルオンナのヤローーーーー」

それから何年かたったある年。オレはすでにブラジルに住んでいた。熱帯魚の王様の「ディスカス探索国際隊」を組織してアマゾンに探検に出かけた。そして、アマゾン中流の街に立ち寄って食料など買い込み船に積み込む作業をした。そのとき、仕込みをしていたスーパーでオーストリアの隊員がレジで何か買っていた。

オレは見た、レジのオンナのコがお釣りの代わりにアメを一掴みこの隊員に渡すのを!

その隊員はウィーンの生まれらしかったが、およそ神聖ローマ帝国の都から来たとは思えない。190CMくらいあるムクツケキ大男で、我々は彼を「赤鬼」と呼んでいた。彼はそのアメをもらってキョトンとしていたが、そのうちデレデレニヤケてきた。その様子をじっと見ているオレに気づき、こう聞いてきた。

「ねぇ隊長、なんか今、レジのオンナのコからアメもらっちゃったんだけど」

ただでせさえムサ苦しい赤鬼フェイスがニヤケで余計鬱陶しくなっている。

「コレッてなにか意味があるんですかねぇ〜隊長」

オレは静かな微笑を浮かべながら彼に厳かに答えた。

「それはそのオンナのコがアンタに好意をもっているからだよ、うらやましいねぇ、さすが神聖ローマ帝国のオトコはモテますねぇ」

赤鬼は本気にしてますますデレデレしている。
オレはココロのなかでつぶやいた。
「バカメッ、オメーがモテルわけねぇだろう テメーの顔をトイレでじっくり見てみろっ!」

でもあの時のオレの顔はウィーンのヤローの顔とマッタク同じだったのに違いない。
クソッー

−−−−ブラジルのアメは甘い。でもアマくはない!!−−−−

by フェリックス 2006年7月

 

 

 

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