アキラメる力


オレがブラジルに住んでみて ”コレだけは絶対にブラジル人に勝てない” ということがいくつかある。どれだけ努力して、トレーニングを積んでも勝てないレベルのコトだ。世の中に、本当に努力して勝てないものはそれほど多くはないかもしれない。でも、やはり何かあるだろう。

ブラジル人に ”絶対に勝てない” という確信があるモノ。

その筆頭は 「あきらめる力」

次に 「ショックから立ち直るスピード」 だ。

オレはこれは絶対に勝てないと思う。それも ”この分野で選ばれたブラジル人” ではなくて ”ほとんどのブラジル人” に勝てない。

オレのダチのダチにMという男がいる。昔は中古車の販売などしていたが、そのうちそれがダメになって弁護士を開業したオトコである。ブラジルで弁護士といえばゴロゴロいて、資格を持っているのに食えないヤツが多いから、別の仕事をしているのはたくさんいる。日本に出稼ぎに行くヤツもいるくらいだ。このMとは、ある時期よくあっていた。シュラスコパーティーとか寿司パーティーの時にダチの家でであうのだった。

彼はダチたちの間でも有名なケチで、日本だったらまずダチ仲間からはじき出されるタイプだ。こう書くとモノスゴクいやなヤツに見えるが、実際に会うとそうでもないところが不思議だった。とにかく口から生まれたようなオトコで、目が覚めたら寝るまでなにかしゃべっている。おしゃべりなブラジル人も辟易していて、誰かがMとの会話にくわわるとサッと逃げる。オレはこの逃げを何発もくらってMを押し付けられ、めまいがしそうになったことが何度かある。でも話題が豊富、妙に親しげで嫌悪感はもたなかった。
ただケチなブラジル人が驚くくらいの堂のいったケチぶりに、オレは目を見はっていた。

例えば、ダチ連中でメシを食うとする。支払いの時に必ずトイレに行く。いいカメラを持っているので写真を撮るのを頼むと、すかさずフィルムをもってこいと言う。Mは自分よりふたまわりくらい若いオンナと2度目の結婚した。スーパーに一緒に買い物にいって、そのオンナが口紅を1本買ったら平然として「コレはお前個人のモノで共通のものではないからオマエが払え」と言ったそうだ。

さてココからだ。このケチなモノの売り買いには狡猾といっておかしくないほど細かいMが詐欺に会ったのだ。Mがピックアップトラックを売りに出した。中古車売買マーケットに持ち込みそこで売った。支払いで握った小切手が不渡りだったのだ。最初から仕組まれた詐欺で、こういうことに超細かいMが、なんとモロにひっかかってしまった。相手は広いブラジルのどこかにトンズラ。小切手をたどっていってもどうせ見つからない。

オレはこの話をきいたとき

「きっとMはショックで死にそうになっているだろう」

「なにしろあのウルトラドケチが200万円もするピックアップを騙し取られたのだから」

と想像していた。ブラジルではクルマの価値は日本の10倍ある。

この噂を聞いてからしばらくして、オレはダチの家のお決まりのシュラスコパーティーで
Mにあった。Mは普段と全く変わらない様子でシャベリまくっていた。

オレはからかいたい気持ちを抑えることができず、ついにこの話をイヤミにも持ち出した。

「おいM、詐欺でトラック盗られたんダッテなぁ」

するとMはいやな顔するでもなく、なんでもなく

「オウ、そうなんだ、参るなブラジルは」

と笑っているのである。どうみてもショックを無理に隠しているように見えない。

「でもショックだろう」

とタタミかけて聞くと

「Fazer o Que−しょうがないじゃないか!」

といっただけー

まったく悔しさや怒りが感じられない。全然無理していない。耐えていない。ごく自然の発言だと直感でわかった。あの口紅1本オンナに買ってやらないオトコがクルマを騙し取られたのにー

そしてすぐ

「実はいい金儲け話があるんだがーXXXXX」

と切り出したから驚いた。もうとっくにアキラメて完全回復を達成していいたのだ。これがオレだったら怒りまくって、そのあとクヨクヨして、ブラジルを呪い、最終的に急降下的落ち込みに見舞われてたと思う。

ここまでの例はすくないが、コレに似たケース、つまり

悲劇に見舞われる→一瞬でアキラめる→すばやく忘れる→元に戻る

の4サイクルが信じられない速さのブラジル人を何人も見てきた気がする。

オレはこのMの話をそのころオレの秘書だったAにしたことがある。Aはもちろんブラジル人だ。Aは政府官公庁相手の許認可申請、書類取得も担当していて、オレがヨコからみていて可愛そうなくらい苦労していた。ここでは詳しく書かないが、ブラジルでなにか許可をとるのは ーそれがたいしたことがなくても、気が狂いそうになることがメッタヤタラとある。でも毎日明るい顔をして事務所に来て、”気が狂いそうな不条理な世界” と格闘していた。

オレのMのはなしを黙ってきいていた秘書のAは、話を聞き終わるとたった一言だけ。

「でもブラジルではそんなもんじゃナイ?」

「そういえば、オマエもよく政府官公庁関係の仕事によく耐えているな?」

「それはね、考えないこと、忘れること、アキラメルこと」

「それは理屈ではわかるが、実際には難しいだろう」

するとA嬢

「いや自然にできるのよ。それができないとブラジルでは気がおかしくなるからー」

と言ったものだ。

この能力は、オレはどうしても手に入れたいと思っている。そうしたらオレのこれからの人生は、いまよりずっと幸せになるだろう。間違いない。

−−−ブラジルではアキラメろ。忘れろ。そうすれば幸せになれる−−−

by フェリックス 2007年5月

 

 

 

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