RIMOWAのトランク


RIMOWAの旅行鞄を初めて目にしたのは、神田にある靖国通りに面した小さなカバン専門店だった。そのころ僕はまだ東京に住んでいて、ブラジル行きのための荷物を詰めるカバンを探していた。できればサムソナイトとかのプラスチックーのハードタイプのもではなくて、少し特長のあるものを買いたいと考えていた。それは −ブラジルに移り住む− ということについての小さな気負いがあったからかもしれない。

このRIMOWAのトランクは、店の前に歩道にはみ出す感じで並べてあった。2−3種類のタイプがあってそれぞれいくつかのサイズがあった。そのころはRIMOWAのブランドは今ほど知られていなくて、僕もその存在を知らなかった。周りに置かれているプラスチックの色とりどりのトランクのなかで銀色のジュラルミンが夕方のオレンジ色の光の中で目立っていて −ブラジルでの明るい将来− を予感させるような雰囲気があった。

値段が普通のトランクに比べてかなり高かったので迷ってしまい、その日は買わないで帰った。でも、このトランクのことが頭から離れなくて何日かあとでその店にもう一度いった。散々眺め回したあと、思い切って特大サイズとLサイズのものを二個まとめて買った。それから数ヵ月後、このカバンに荷物をいっぱい詰めて僕はブラジルに出発したのだ。ブラジルでの生活は、必ずしもこのトランクが予感させてくれたような明るいものではなかったけれど、RIMOWAのトランクは買ってから14年もたつのにまだ使っている。

ブラジルで生活を始めてからしばらくして、仕事でドイツのケルン市に頻繁に行っていた時期がある。このトランクがドイツ製だったのは知っていたがケルン市に本社があるとは知らなかった。友人のドイツ人に頼んでケルン市内にあるRIMOWAのトランクを扱っている店に連れて行ってもらった。さすがにRIMOWA発祥の地にふさわしく、日本では見たことのなかったいろいろな種類があった。そのころはドイツの通貨はまだマルクだったから日本で買うより安かった。耐久性と軽さがすっかり気に入っていた僕は、ケルン市へいくと機会を見つけてその店に顔をだすようになった。そして、時に気に入ったものを見つけるとそれを買ってブラジルに持ち帰った。配偶者もこのトランクが気に入っていくつか買ったから今では二人で7個も持っている。

いくつか持っているRIMOWAのトランクのなかで一番使っているのはー というよりその1個しかほとんど使っていないがー 神田の店で買った小さいほうのやつだ。こればかり使うのには理由がある。このトランクはフタが90度開くタイプで、ほかのモデルのように180度バタンと両側に開くタイプではないことだ。ホテルの部屋にはたいてトランクを置く小さなスペースが壁際に設置されていたり、荷物を置くための専用のスツールがおいてある。これが180度開くトランクでは使い勝手がよくない。90度開きだとピッタリ収まる。出発の直前にバサッと荷物を投げ込んで、バタンとふたを閉めてあわてて部屋を出るクセがついてしまっている僕には、ただ投げ込めばいい90度開きタイプは
とても使い勝手がいいのだ。

このトランクひとつで欧州、東南アジア、アメリカ、アマゾン、パンタナルと何十回と出かけた。空港やホテルで何枚もステッカーを貼られ、放り投げられ、押され、蹴られ、時には僕の腰掛代わりにもなったこのトランクは、まだ現役で働き続けている。いくつか持っていたサムソナイトのモノはやがて壊れていって人にあげたり捨てたりしてしまった。

いまでは普通に売られているトランクは180度開きタイプばかりで、RIMOWAでも90度開きのものは殆どなくなってしまった。なぜだろう?

いままでRIMOWA以外のトランクに魅かれたことはなかった。でもこの間、RIMOWAの強力なライバルを見つけてしまった。それは GLOBE TOROTTER というメーカが作っているイギリス製のトランクだ。紙を圧縮して作られている黒いシンプルなデザインのもの。そして90度開き。

いま使っているRIMOWAが壊れたら、GLOBE TROTTERのトランクをひとつ買ってみようかと考えるようになった。でも問題は、RIMOWAのトランクが14年も使っていて壊れず、これからも当分壊れそうに見えないことなのである。

by フェリックス 2007年5月

 

 

 

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