ブラジル銀行 2


続きを書くのをすっかり忘れていました。

さてさて、ブラ男は、憤然としてその銀行員の女に文句を言いに行ったのだが、今更態度を変えれる状況でもなく、ほぼ無言状態の女。

支店長に文句をいうべくすぐ近くの椅子に腰をおろして待つことにした。その間、暇な私は、こん身の眼力をこめてこの女をジロジロと観察しながらにらみを利かせていた。

ブラジル人にとって、アジア系の顔立ちはすご〜〜〜くミステリアスである。切れ長で細い眼は、彼らにとって美しくもあるが、一歩間違えるとかなり恐ろしいものでもある。その辺は、今までのブラジル生活で充分認識していたから、わたしのにらみは、彼女にとって呪いでもかけられているような感じだったはずだ。

15分ほど経って、別の銀行員の男性が「支店長が戻ってきた」と、ブラ男に耳打ちしにきた。

しかし、その支店長を見た瞬間、わたしもブラ男もため息をついた。まだ30代前半くらいの青白い男性は、どう見ても銀行員たちをまとめられるようには見えなかった。つまりは、多分、みんなになめられているだろう ということが猫背の全体の雰囲気でわかった。

彼は、わたし達のことを聞いていたのか、ぺこりと目配せをして、自分の部屋に来るように促した。軽く挨拶をすると、「ちょっと待って下さい」といって、そわそわと奥の部屋に消えて行った。

しばらくすると、小柄な白人のずる賢そうな雰囲気のある部下を伴って戻ってきた。恐らく一人では心許無いと連れて来たのだろう。

この頼りなげな二人の男たちに何を言ってもたいして効果がないことを話す前から感じた私達は、それなりにクレームをいって、口座を閉めることを告げて引き上げることにした。

 

次の日の4時位の事。

真っ青な空にサンサンと太陽が照りつける中、我が家の5匹のシェパード犬のシャンプーをしていると、急に空がうるさくなった。ヘリが我が家の辺りの上をぐるぐると飛んでいるのを確認したのだが、ヘリに乗っている人が見えそうなくらい低い位置を飛んでいるのに驚いた。たまにテレビ局のヘリが上空を通過することはあるけれど、こんなに至近距離を旋回することはありえない。黒っぽい塗装の恐らく軍のヘリではないかと思われた。うちに落ちてくるのではないかと冷や冷やしながら眺めていると、5分くらいで遠くへ去って行ったのでほっとした。

犬のシャンプーを終えて、一息ついていると、ブラ男がかなり興奮して戻ってきた。

ブラ男 「うちの上をヘリが飛んでたんだって?」

わたし 「うん、すごい至近距離で落ちないかと心配するくらいだったわよ。」

ブラ男 「あれは、銀行強盗を追跡してたんだ!」

ヘリを見損なったブラ男は、この上ないくやしそうな表情をしてがっかりとした。ブラ男によると、まさに昨日ひと悶着あったブラジル銀行に強盗が入って、お金を盗んだ後、うちの裏の通りに止めていた車で逃走したらしかった。

この強盗たちは、最近、ゴイアニア周辺を中心に強盗を繰り返しており、その手口は、銀行が閉まる直前に銀行の真正面から大きな石かなんかでガラス張りの回転扉の脇を割って侵入して、銃を構えて銀行員に現金を出させるという、すごくシンプルなやりかたなのだが、侵入から逃走までに3分とかからないらしく、今までの数件の事件をまんまと逃げおおせていた。

ブラ男の行きつけのバーの常連の警官が感心?するくらい素早いらしかった。普段ノロノロしているブラジル人でもやればできるということだろう。。。(苦笑)

けれど、今回は、ちょっと調子が狂い、ガラスの破片で3人組の一人が腕にケガをしたらしく、うちの裏に止めてあった車の辺りで、なんだかもめていたらしい。たまたまベランダに出ていてその様子を眺めていた裏の家の息子は、

「なに見てんだ!」

と一発撃たれたらしい。運よく弾は彼には当たらなかったが、ベランダのガラスにくっきりと風穴が残されていた。

どうやら、ケガをした男が車の運転をする係だったらしく、誰が運転するかでもめていたようだった。それでも、彼らは逃げおおせて、すっかり彼らが逃げ去った後に連絡を受けた軍のヘリがうちの周囲の上空をぐるぐると旋回していたという訳だった。

 

このブラジル銀行の話を聞いたわたしはほくそ笑んだ。

まさに昨日、呪いがかった眼差しで失礼な銀行員の女をにらみつけたのだ。呪いだとか魔法をこの上なく信じるブラジル人のことだから、きっと、この女にとってこの事件は「わたしの呪」によって引き起こされたと思ったに違いなかった。

さて、1週間ほど経って、ブラジル銀行の口座を閉めにブラ男と出かけると、回転ドアの脇は、間抜けなべニアで補強しただけでまだ修理もされていなかった。中に入ると、何か違和感を感じた。まず、いつもの小柄でひ弱そうなガードマンは頑強そうな男性にかわっていた。よくよく見渡すと、見なれた銀行員の姿はほとんどなく、かなりの人数が新しい顔ぶれに変わっていた。そして、商用口座の担当者も見るからにちゃんとした銀行員という感じの男性にかわっていた。彼の話では、店長も変わったらしかった。彼は、前の担当者の無礼を丁寧に謝って、サクサクと山のような書類をこなして、あっという間に手続きは終わった。もしも、別の間抜けな行員だったら、1時間くらいかかったのではないかと、「最後良ければ全て良し」とすがすがしい気持ちになった。

ここ数年で町に数件しかなかったブラジル銀行の支店は、まるで日本のコンビニ状態でボコボコオープンして、結果、行員不足が生じ、一人の作業量が異常に増えていることは客のわたし達にも簡単に見てとれていた。あの失礼な女性行員も仕事の多さに少し鬱状態になっていたような感じがした。

この出来事は2008年の9月のことで、誰もがブラジルはまだまだ成長すると信じていたが、今となっては、世界経済の低迷でブラジルも以前の勢いを失い、銀行もあの頃の忙しさから解放されて、ある意味ほっとしているのではないだろうか。

雨後のタケノコのように建った銀行の支店は、徐々に少なくなるかもしれない。

ちなみに、あの強盗団が逮捕されたとは未だに聞かない。

by  あっこちゃん 2009年4月

 

 

 

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