ブラジル銀行 1


つい先日のことである。客の小切手が不渡りとなり、口座を置いているブラジル銀行へチェックの引き取りに行った。

ブラジルの銀行は、個人口座と商用口座では対応する窓口が違い、個人だと気の遠くなるような列に並んで、イライラを誰にぶつけることもできず、おとなしく自分の順番が来るまでディズニーランドよろしく並び続ける。商用になると、個人よりも高い月額使用料を取られるが、待つための椅子はあって、個人よりもマシな対応を受けることができる。

とはいえ、最近のブラジルの景気成長により、雨後のタケノコのようにコンビニ感覚で至る所に銀行は支店を増やして、どう見ても、人手不足だというのが見て取れた。以前は、商用に対応するための2つのデスクには常に2人の担当者が座って対応していたのだが、今では、たいてい、1人しか座っていない。でもって、経済発展してるんだから、商用口座を持つ人も増え、ただ単に不渡り小切手をもらうためだけに何十分も待たされるのが通例となっていた。しかも、銀行員の対応も昔に比べ恐ろしく悪くなったと思う。以前は、客自体が少なかったから、無駄口をたたく暇が十分にあったのだが、今は、常に長い列ができているので、いくら客を客と思わないブラジル人でもちゃんとこなしていかないと自分の首を絞めることとなる。

さて、不渡りの小切手だが、以前は、ネットバンクで不渡りが確認できた次の日には取引銀行に戻って来ていたのが、今では、2日後にならないと戻らない。前回不渡りがあった時に無駄足を2回もくらったわたしは、今回は、2日後の午後、確実に届いているという確信を持ちつつ銀行へと赴いた。

ちょうど2時を回った頃で、最近の異常な暑さのためか、客足は普段よりも少なく、わたしの前には誰も待っておらず、銀行員の女性は、年寄りの客の対応をしていた。わたしは、ブラジル人の顔は、特別な印象がない限りなかなか覚えられないのだが、この女性の銀行員には何か悪い予感がした。なんかのことで知っている銀行員だと思った。なんかのこととは、たいてい悪いことだから、いやだなぁと思いながらも、順番が来るのを待った。

年寄りの客が、席を立つような素振りを見せた時、いきなり、後からやってきたどっかの事務所に雇われている使いっぱの男が、常連よろしくわたしをカットして年寄りの男性が立ち上がったところに割り込んだ。

通常だと、銀行員は順番を守るように指示する。ところが、この女は、完全にわたしを無視してこの男の対応を始めた。イラつきはしたが、すぐに終わりそうだったから、その客の用事が終わりそうな時に、デスクの前にある椅子に座りこんだ。ところが、この女は、わたしを無視して、席をはずそうとした。これには、わたしも黙ってはいれない。

「ちょっと!あなた。」「不渡りチェック取りに来たんだけど」

すると、今、まさに気づいたような素振りで「なんといったの?」

と聞く。

外人のわたしの発音が悪いのは分かり切っていることだから、「不渡りチェック!」「チェックが戻ったのよ」と言い直した。

というが、わざとらしく分からないふりをしているようだったから。

「フ〜ワ〜タ〜リ〜 チェック」

というと、やっとわかったような振りをして、わたしがあらかじめ用意しておいた口座番号と口座名義を見ながら、そばの棚から箱を出して探し始めた。

この女は、どうやらわたしに悪意を持っているようだと感じながら、眺めていると

「ないわよ。チェックが戻ってくるのには2日かかるの」と嬉しそうにいう。

わたしが「もう2日経ってるんだけど」

というと、ちょっとあわてて「2〜3日かかるの」という。

うちのチェックの口座名義は、事業名を変えた時に変更したのだが、それをきっかけに不渡りチェックがブラ男の名前で個人口座に紛れ込むようになった。個人口座に紛れ込むといっても、別にブラ男が個人的な口座をブラジル銀行に持っているわけではなく、ブラジル銀行の個人口座の箱に紛れ込むようになったということである。前回そうで、何度来ても「まだ来てない」といわれ、たまたま居合わせた商用担当の中で唯一親切な銀行員の男性が「もしかしたら、向こうに紛れ込んでるかも」といって見に行ってくれてようやく返してもらったのだ。そういうことがあったから

「前回、あっちに紛れ込んでたんだけど、見てきてよ」というと

「あっちだったら、あなたが列に並んでもらいなさい」

などとのたまわった。

取り合えず、ここでわたしのムカつきは絶頂に達した。

だいたい、日本人全員が大人しくて礼儀正しくてなんでもいうことをヘコヘコ聞くと思ったら大間違いである。わたしは、一見そうみえたりする。

ここで、完全に彼女はわたしを敵に回したことになった。

 

「何をいってるの!あんたが見てくるのよ!」

「商用チェックでしょうが!」

 

と怒鳴ると、この銀行員がどうあるべきかを全く理解していない女は「わたしは、あっちにはいかないわ」と言いだした。

すぐさま、携帯でブラ男に電話して怒鳴りつけてもらおうと思うと「わたしは、携帯には出ないわよ」と少し慌てていった。

ブラ男に「出ないっていってるわよ」というと、ブラ男は「××××といえ!」という。何を言ってるんだろうと思って聞き返すと「トマノ×といえ!」と完全に切れている。いくらなんでも、それをわたしのお上品な口からは言えないと思いながら「そんなこと言えないわよ」というと、「すぐ行くから待ってろ!」と切れた。

「支店長と話したいんだけど」というと「支店長は、あっちの部屋にいるわ」と呼びにも行かない。完全にバカにしている。

「主人が来るのを待ちます」というと、この銀行員の女は「待てば」と言い切ったが、待ちながら彼女の動向を観察していると異常に動揺している。

ちなみに、彼女の容姿はというと、昔のオカルト映画「ミザリー」のストーカー女を金髪に染めたようなというか染めてるんだけど、怪物系である。見るからに気が利かなくて動きが鈍そうな類だ。太っているせいもあるかもしれないが、目から下が異常に下に垂れ下がってて、どれくらい頬の筋肉が衰えているのかを示している。つまり、この女性は滅多に笑わないのだ。この容姿、この異常な対応からして、うつ病気味かもしれないと思った。わたしのいうことを分からないふりをしてくれたお礼に、分かるか分からないか微妙な表現で「まったく、なんて失礼な女なんでしょ」「体が重くてあっちに行くのも面倒みたいね」と英語で大きな声で投げかける。ブラジル銀行に入社した知り合いによると、入社後は英語の勉強をしないといけないといっていたが、多分、この女は、全く分からないのだろう。とはいえ、わたしが罵声を放ったことは馬鹿でも理解できる。既にこの支店中が明らかにわたし達に注目していた。そのぴんと糸を張ったような空気がそれまでのダレた銀行員達の刺激となってなんか心地よかった。

5分くらいこの女を観察していると女が少し慌てたような気がした。ふと、振り向くとすごい剣幕でブラ男が登場した。ちなみに、ブラ男の容姿は、身長180センチ体重95キロ、デカイ上に頭はスキンヘッドである。そんな男がまるで煮えたぎるかの剣幕で銀行に飛び込んで来たのである。その場にいた人たちには当然、それがわたしの旦那だとは一目瞭然なのだが、ここは、ブラジルである。防犯のために銀行の入口には警備員が配置されているのだ。わたしが警備員なら、確実に一旦彼を止めると思う。どっからどうみても怪しい怒り狂ったブラ男なのだ。それをスルーするんじゃ、警備員を置いとく意味がないと思いながら、ブラ男に手を振った。

(つづく)

by  あっこちゃん 2008年9月

 

 

 

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