男と女の断章 Seven True Stories   第四話 フランスの女

Nは大学の後輩で、私が入社してから何年かたって同じ会社に入ってきた。後輩といってもクラブとかゼミとかつながりのある後輩ではない。彼は、小学校からエスカレーターで上ってきた東京生まれのブルジョアの坊ちゃんだった。

最初はそれほど親しくなかったのだが、まぁ同門の好みもあるし、おなじ海外部門に所属していて、仕事で一緒にプロジェクトを進めるようになったりして親しくなっていった。自然に彼や彼の仲間と飲みに行く機会も増えていた。

彼は長身で性格が明るく話題も豊富だった上に、都会育ちのソフィスティケートされた
雰囲気を漂わせていたから、社内でも女性の注目の的だった。社内の女性を通じた情報網を持っていて、人事や転勤などの機密?情報を正規ルートより早く入手していたりして、飲み屋でそっと教えてくれたりした。

女性にモテルタイプといっても男から見ても嫌味ではなく、どこか ”男どうしの付き合い”を重んじるところがあり、そこが彼の好きなところだった。我々が出た大学は男女とも東京とその近郊出身が多く、地方出身者はかなり少なかった。会社の職場もなぜか関東出身が多かった。そのなかでも海外部門はほとんどが東京横浜出身で固められていたから、そのなかの数少ない地方出身の若い人たちはちょっと浮いているような雰囲気があった。しかしNは、地方から出てきた、彼とは生まれも育った環境も全然違う、まだイモクサイ若い後輩とも気が合うとまったくパラレルに付き合うことのできるタイプだった。

そのころ私がよく接待で使っていた高級クラブがあった。そこは外国人の女性だけが
ホステスをしていて、英語がある程度話せないとまったく楽しくない。海外からの客が多かったから、そのような場所をいくつか押さえておく必要があり、それで知っていたのだ。彼女たちはママの方針で 北米、欧州、豪州の女性に限られており、客とトラブルを起こしやすいという理由で南米の女性はカットされていた。だから客も商社やメーカーの海外経験者が中心で値段も銀座並ー だったと思う。

Nは海外部門に所属していたが、営業ではなかったから接待でそのような場所に行く機会は余りなかったはずである。その彼をある日、仕事が終わった後そのクラブに連れて行き一緒に飲んだ。Nはそのクラブがすっかり気に入った様子だった。厳しい面接をパスして入ってくるという噂だったから、そこの女性たちは話題も豊富で、いろいろな意味でレベルも比較的高かったし、東京の一等地にあり雰囲気もとても華やかで彼の好みにぴったり合ったのだろう。

それからしばらく怒涛のようなNのクラブ通いが始まった。彼は20代半ばでまだ独身だったし、ブルジョア家庭出身だから給料だけが遊びの資金だったとは思えない。その後は、私が逆に彼に誘われてそのクラブに行くことも多かった。そこはホステスが30分に一回くらい替わるシステムで、次から次にいろいろな国の女性が回ってくる。だから隣にすわる女性がコロコロ変わる。ある特定の女を選ぶ場合は指名料を払うという ”JAPAN SYSTEM” が導入されていた。

Nはフランス人のF嬢が気に入った様子で、彼女もNが入ってくると他の客がついていても彼のところに露骨に来たそうな雰囲気を漂わし、チラチラと彼にサインを送っているのだった。F嬢は小柄でほっそりしていて、金髪のロングヘアーがなかなか魅力的なかわいい感じの女性だった。Nの英語力は当時はまだたいしたことはなく、決して流暢に冗談をいって笑わせるというレベルではなかったと思うが、傍でみていると彼と話しているF嬢がいつもカラカラと楽しそうに笑っている。こちらには別の女性がついているから彼らの会話はよく聞こえないのだが ”あの程度の英語で” といつも不思議だった。”実力以上の能力” を発揮していたのに違いない。

やがてこのF嬢が本気になってきた。この方面に疎い私でもよくわかった。このクラブは一応高級クラブだから、もちろん客との店以上の付き合いは禁止されている。でもF嬢は頻繁に会社に ”来てほしい 来てほしい” と電話をかけてくるようになり、それが単なる 営業とは思えない雰囲気になってきたらしい。Nは自然に女性に親切でマメでもあり、お金もスパッとなんの ”思惑” もなく遣えるタイプだったから、海外に出張に行くとかならず香水とかのプレゼントを買って彼女に渡していたし、彼女がエアコンが寒いと一言うとサッと上着を脱いで彼女の肩にかけてあげるのだった。それが歓心を買うための ”貢ぐ” という雰囲気はまったくなくナチュラルに見えるところに感心していた。

やがて、このフランスのF嬢がNにいよいよ熱をあげてエスカレートしていくのを折々に見たりNから聞いたりした。ある日深夜を過ぎて店が終わり、Nと帰宅するF嬢と、私と一緒に飲みに行った会社の同僚と店から一階に下りるエレベーターに乗ったことがある。するとF嬢は、エレベータがしまり店のママの厳しい監視の目から逃れたとたん
私やほかの男性の目など一切気にせずいきなりNにしがみつくように抱きつくのだった。そして ”別れたくない、別れたくない” といい、もだえるのだ。こちらはきれいなフランス女にしがみつかれている男などバカバカしいから、まだゴタゴタしている彼等をほおりだして即帰る。

さて、私はNには日本人のガールフレンドがいるのを知っていたから、

「これヤバクないの?あのフランス女と結婚するのかー」

と聞いたことがある。するとかれは、

「え、フランス女と結婚? 結婚は日本人に決まっているでしょう。
ーこの味噌汁ちょっと辛いね?ー ーあらそうかしら、じゃ丸米からハナマルキに
変えてみるわー この会話がボクには大事なんです」

「じゃあ、なんでつきあっているんだ あのフランス女と?」

とバカバカしい質問を私もしたものだー

「ええ、そろそろヤバイです、うまく別れなければ、でも会社の電話番号しっているからな」

その間かれは大変だったらしい。F嬢はもはやNの恋人のつもりで、土日のデートをせがむらしい。一方彼は、オリジナル?のガールフレンドがいるから、そちらの手当もしなければならない。

これはいつか騒動になるかもしれないー
と思っていたら、ある日Nが私の机にきてささやいた。

「さっきF嬢から電話がかかってきてー 何でも父親が病気だとかで、急きょパリに帰ることになったんですってー いつ戻れるかわからないと言っていました」

彼はホッとした表情である。

「最後は空港まで送っていきますよー しかしよかったぁ」

そのあと話を聞くと、空港で彼女は泣き崩れ、周りの人があまりにジロジロみるので
はずかしくてしょうがなかったと言っていた。そうだろう、きれいなフランス女が日本人の男に抱きついて泣き崩れているー というのは異様な風景に違いない。

さてしばらくして、昼休み喫茶店でNととりとめのない話をしていて、談たまたま F嬢のことに及んだ。もう過去の話である。

「しかしN、お前もモテルなぁ、あんなかわいいフランス女があそこまでメロメロになるんだからなぁ」

というと、彼はふと真面目な顔になって

「XXさん、女は外人も日本人も同じですよ。人種とかいろいろあっても一皮むけばみな同じー むしろ男同士の付き合いのほうが人種の壁はキツイいんではないですか」

その時はそんなもんかー とおもっていた。後年ブラジルにきてから欧州の男と仕事を通じて親しくなったとき、彼の言ったことが当たっているのかもしれないと思った。どれだけ一緒にアマゾンに出かけても、どれだけ家庭に入り込んでも、家族ぐるみでつきあっても、私のほうに彼らとの違和感が消えないのである。女性とは?残念ながらそれはチャンスがないのでわからないままである。

by フェリックス 2007年9月

 

 

 

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