ビールフォルダー


ブラジルのビール作法は、ビールを凍る寸前の極限まで冷やす事だと以前述べた。

この国ではビールはキンキンに冷えていないと価値がないと思われている。

で、極限まで冷やしたビールをどのように持つのか?また、折角冷やしたビールがぬるくならない為にはどのようにすればいいのか?と云うところに、大半の情熱が注がれてる。

特に瓶ビールに関する取り扱い方は難しく、凍る寸前まで冷やされたビール瓶の胴を決して触ってはいけないのだ。もしこれにうっかり触ると、ビール瓶は指の微妙な温度差を感知して突然ビールが瓶ごと凍結してしまうからだ。従い、BARで働くウエイターの最初の教育は、冷やしたビール瓶の取り扱い方だと言われている。冷やしたビール瓶のネックをそろっとつまむ練習を厨房でやらされていると思うと可笑しい。

日本には、やたらラーメンに詳しいラーメン通がいて、いちいち、うざったいウンチクを聞かせてくれる輩がいるが、ここブラジルには、冷え冷えビール通が多い。彼らは、もし瓶が凍結した場合の解凍方まで知っていて、テーブルでわざわざビール瓶を凍結させて、その瓶を実際に解凍してくれる。で、彼らの技にかかると、あら不思議。凍結したビールがみるみる解凍してしまう。余興としては面白いが、なんで折角凍結しないように細心の注意をはらって提供されたビールを凍結させるのか?「ビールは凍らせると不味くなる」と普段から通ぶって言っているお前の発言は何なのか?と「ムッ」としてしまう。

まあ、そう言う訳で、ブラジルの瓶ビールは注文すると必ずビールホルダーと云うものが一緒に出てきて、このホルダーの中にうやうやしくビール瓶が収められる決まりになっている。

このホルダーの中身は発砲スチロールで、確かに保冷能力に優れている為暑い真夏でもビールがぬるくならない。

が、私はこのビールホルダーが大嫌いだ。なぜかと言うと、霜のふっている瓶をこのホルダーに入れると、その霜が溶けビールホルダーの中に水が溜まるからだ。ビールも残り少なくなってくると、瓶を相当傾けないとグラスにビールを入れることは出来ない。
このかなり傾けた時、ビールホルダーに溜まった水も同時にチョロッとグラスに滴るのだ。これがいけない。ビール瓶も、ホルダーも洗ってあるわけではないので、その溜まり水は汚れでビール同様の琥珀色をしている。従い一見した所ビールの色と変らない。この事実にブラジル人は気付いているのだろうか?

だから、私は折角、丁寧にビールホルダーに入れられて来たビールを、ホルダーから
抜き去り、裸でテーブルに置く。すると、ウエイターが、新しいビールを持ってすっ飛んでくる事になる。ブラジルでは、ビール瓶をホルダーから抜くという事は「ビールなくなったから早く次ぎ持ってこい」の合図という事になっている。

さて、、ウエイターは私のビール瓶にまだビールが残っている事を確認すると怪訝な顔をして「ビール冷えていませんでしたか?」とこう聞く。「いや冷えていますよ」と言うと更に怪訝な顔をして、なぜホルダーから抜くのか?日本人は熱いビールが好きなのか?と質問してくる。こちらはいちいち説明するのも邪魔臭いので、残りがすぐに確認できるよう外に出してあるの。という事にしているがウエイターは納得いかない顔で首を振りながら引き下がり、同僚のウエイターに馬鹿な日本人がホルダーからビール瓶を抜いて飲んでいると伝えている。

隣の席では、自称冷え冷えビール通のブラジル人グループが人を馬鹿にしたような顔でニタニタしながら、こちらに向かってピ-スサインなどを出している。

こちらも、フン、フォルダーの溜まり水飲んで喜んでいる間抜け達、とニタニタしながらピースサインを送り返してやるがひょっとすると、ホルダーの溜まり水が、ビールに革新的な味を加えブラジルの冷え冷えビール通達を唸らせているかもしれないと思うと不安が胸をよぎらないでもない。

by ヒカルドン 2007年4月

 

 

 

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