ザッハトルテ


アタシは甘いものには目がない。父親譲りの食いしん坊で、「母が客に小分けにして出したお菓子を自分のはすぐ終わって本能的にお客の皿に手を出す」という失態を親子そろって演じたことがある。

甘いものは大体なんでも好きだ。和菓子(とくに揚げ饅頭、オハギ、みたらし団子)、洋菓子全般、中華クッキー、杏仁豆腐の類。アジアでは米菓子やタピオカ物などなど。ロシアも色々特長のある甘いモノがあるに違いないとにらんでいるが行くチャンスがない。

特に好きなカテゴリーは洋菓子。そのなかでもケーキ、クッキー、チョコレートには執着がはげしい。ところが大いに残念なことに、ブラジルでは甘いものはおいしくない。クッキーもケーキもチョコも全然ダメ。つくりが雑で素材がダメで、製法を知らないし、ダメ。ゴイアニアはモチロンダメで、リオもサンパウロもおいしくない。リオの高級レストランのデザートでなんとか日欧の普通のレストランのデザートレベル。人の家に呼ばれて食べても ”素朴”ということはできるがココロからオイシイと思うことはマレである。ブルジョア家庭のデザートでも同じようにダメ。食べられないことはないが、食事のあとに口が寂しいので「甘味の含まれている食物を摂取する」といった感じになってしまう。

アタシはこと洋菓子に関しては「素朴な味、庶民の味、家庭の味」より「複雑な味、高級な味、プロの味、キレイに仕上げたもの」が好きである。過日、東京に戻った時にブラジルで衰退した舌を鍛えるべく、「イデミスギノ」と「ル ショコラティエ高木」、「オービューボータン」など日本を代表するパティシエが作るケーキやクッキーを家人にたのんで仕込んでもらった。驚愕の一言。ブラジルはサンパウロの高級店Sta Mariaのケーキと比べて、‘トリノオリンピック金メダル‘と‘三多摩地区地区優勝‘位の差がある。しかも値段は一緒。小さいケーキ一ケ500円UP。

では、ブラジルでおいしくないケーキやクッキーでアタシが我慢しているかといえばそういことは全くない。我慢?それはできない。甘いものについてはー。自分で作る?それもできない。無理。時間もない。

しかし「作ってもらう」という奥の手があるのだ。ここブラジルでは。

さてここで登場するのがアタシの家で女中さんをしてもらってるアンジェリータ。”本気になれば天才”タイプで何でもできる。明らかに料理の才能がある。これに”本気の時はかなりおいしい”家人が講師で登場。

普通は女中さんは料理の本を買うお金がないので、才能があっても伸びない。料理学校など夢。家庭で覚えるしかない。そこを超えるため ありとあらゆるお菓子の本を買った。日本語では有名パティシエやショコラテイエの本から国別お菓子の本まで、ポル語ではフランスはコルドンブルーとラルースのお菓子の本まで。

次は素材との戦いが待っている。ブラジルでは素材は東京やパリのようには揃わない。強力粉、バニラビーンズ、バニラオイルなどまず手に入らない。誰も知らない。バニラもウスイ。ココアパウダーは色が薄くてキレイでない。生クリームの素材は乳脂肪分が先進国モノと違う。種類も少ない。リキュールも輸入物は日本より高く、ブラジル物は薄くて品質が悪い。キルシュで比べると、ドイツ物を使うとニオイと味が飛ばないが、ブラジル産アルゼンチン産キルシュは1日で風味が全部飛ぶ。キルシュトルテが別物になってしまう。

安いのは小麦粉(中リキ粉)、砂糖、果物などの基礎素材で、香料とかは高い。セルクルなどの型などの道具も一般的なもの以外は手に入りにくい。これは日本から持ち込んだ。

あとは毎日毎日、朝打ち合わせをして日本語のものは家人がポル語で説明し、アンジェリータがノートに取る。ポル語のものはよく読んでもらう。アタシはというと「明日はコレ」、「あさってはコレ」と食べたいものを指定しプレッシャーをかけるだけ。そして製作にトライしてもらう。本も100%親切に書いていないし、素材のばらつきもあるので、レシピが最終的に確定したらノートしなおし、デジカメでとりPCに保存する。あとは資金。普通のブラジル人では想像できないくらいの投資をしたー。

その結果わかったのは、フランス菓子は仕上げも技法的にも手間でも圧倒的にハードルが高いこと。さすがフランス菓子、一筋縄ではいかない。逆にそれ以外の国のモノは大体できる。いまではアタシが満足できるケーキが20種類以上できるようになっている。これからはボンボンショコラとフランスプチケーキ群とクッキーだ。この道に終わりはない!

さて写真で紹介しているのはザッハトルテ。 チョコレートを主体にしたケーキ。ウィーンを代表するケーキでデメルという店のものが有名で東京にも支店がある。仕事でドイツに行ったときよく食べた、ドイツ語圏のケーキともいえる。

見かけはシンプルだが、キレイに作るのがすごく難しい。たいていのお菓子の本で上級にランクされている。
テンパリングのための大理石もいる。何度も何度も失敗して最近やっと味も形もまぁまぁのレベルになってきた。一度成功してもしばらく間をおくと忘れてしまうから料理の世界は大変だ。

このケーキ、味は文句はなかった。でも外側のチョコレートのかかり方が雑で表面がキレイでない。アンジェリータもそのことはわかっていて

「スポンジを前の日に作っておいて寝かすべきだった、そこを手を抜いた。次回は完璧に作るー」

と意気込んでいたのであった。

by フェリックス 2006年10月

 

 

 

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